±10cmから見た日常 (ページ29)

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side F ページ29

「おい北山、帰るぞ」

「え」

「仕方ねぇから、さっきのカフェの紙袋ひいて帰ろう。風邪ひく」

「・・・おう」

「あのさ、藤ヶ谷！！」

あるき始めていた俺の背から、デカイ声が聞こえて振り向いた

「なに？」

「あ、あのさ…」

「ん？」

「また、一緒に来ような！！」

そういった、北山の表情をみて、
何となく彼の考えていることがわかった気がして、俺は思わず吹き出した

「ぷっ…」

「おい！笑うなよ！」

「いや、ありがとう…また来ような？」

「え…お、おう！」

「なに北山、顔赤いけど？」

「夕日のせいだっ！！」

頬を染めた北山に、ほらっと手を差し出す

「テトラポット歩きにくいだろ。俺の身体に傷つけんじゃねぇ」

「うるせ。さっき俺の身体でこけたくせに」

悪態をつきながらも、俺が伸ばした手を、つかんだ北山
握られたその手は、オレンジ色の夕日のように、温かさを感じた

その手をぐっと引くと、一瞬だけ近づいた顔

ちゅ

もう一度だけ、軽くフレンチなキスをお見舞いする

「っ・・・！！」

「さ、いくか」

重ねた北山の唇は、柔らかくて、少しだけ、海の香りでしょっぱかった

二人の背中を照らす夕日のせいにして、少しだけ染まった自分の頬を隠した