±10cmから見た日常 (ページ18)

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君と僕、の事情ページ18

「あ〜つめてぇっ！！」

「っ…」

びちゃびちゃの洋服のまま、とりあえず玄関を抜けて、バスタオルを無言でソイツに放り投げた

「ひでぇどしゃ降りだな、まったく」

「だから、早くかえろっていったのに…」

濡れた体を拭きながら、もう一度そちらを見る

俺が北山…もとい、今は俺の体の主になってしまった、藤ヶ谷太輔にみえる、北山をいつもより低い身長から見上げた

「降るなんて聞いてねぇよ！」

「だから、夕方豪雨になるかもしれないからって言ったのに、北山があんなとこよるから！」

「うるせぇなー、あそこの焼き鳥が美味いんだよ！」

「今度でいいよっ！第一、お肉だって濡れちゃったじゃん」

「チンするからいいんだよっ」

そういう問題じゃないと思いながら、冷えた身体で風呂のスイッチを入れる
今はコイツの相手より、早く温まりたい
　

「元はといえば、藤ヶ谷がチンタラ選んでるから」

「だって、人への贈り物だし！」

「それにしても遅せぇ！女子の買い物かよ」

「北山が勝手についてくるっていったんでしょ！」

「そもそも俺の体で買い物いくからだろうがっ！」

遡ること数ヶ月前
昔から長くお世話になっている女性のスタッフさんから、いつもお疲れ様と、素敵な誕生日プレゼントをいただいた

お返しをしようと思っていた矢先、まさかのお互いの身体が入れ替わるという、ありえない事故に見舞われていたせいで、すっかり彼女へのお返しを用意する事を忘れていて、誕生日はもう明日だった
今日購入して北山に渡して貰おうと思ったら、俺も着いていくと言われた

どうやら、北山姿の俺が、女子向けのプレゼントを選んでる姿を目撃されたくなかったらしく(二人なら余計目立つ気もしたけど)、北山の気持ちを汲んで、あまり女子っぽすぎない、ショップを訪れていたのだが…

じっくり吟味して、素敵なフレグランスミストの詰め合わせを購入した俺は、怪しい雲行きが気になって、お天気アプリが夕方から豪雨予想を示していることに気づいた

それを伝えたのに

「お前の買い物に付き合ってやったんだから、俺にも付き合え！」

という北山に、何故か最近見つけたという炭火焼鳥やまで連れて行かれて、何品か北山好みの串をテイクアウトしているうちに、雨に降られた

当然タクシーを探したが、周りも同じなわけで…

苦労してどしゃ降りの中、タクシーに乗り込んだときには、すでにもうお互い下着も靴もびちゃびちゃだった