±10cmから見た日常 (ページ2)

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始まりの一日ページ2

この世の中に、こんなに奇妙で奇天烈なことがあってたまるか

いや、でも実際、自分が体験してしまっては、どうもこうも、ない

オカルトも、占いも、悪いことが書いてあるならば、あんまり信じないはずの俺だって、この状況に、何も言えない…

「はぁ…」

「おい、そんなため息ばっかつくなよー」

俺の部屋で、俺よりも寛いでいるのは、誰がどう見ても、俺、藤ヶ谷太輔の姿

いや…姿、だけは

「北山…なんでお前そんなに、馴染んでんだよ」

俺の姿をした北山をちらりと横目で見る

フフッと口角をあげた北山は、俺の顔なのに、その表情の作り方は、北山のそれを彷彿とさせた

「別に、馴染んでねーけどさ、とりあえずこの状況を楽しもうかなって」

そういうと、コンビニ弁当の空箱を放って、先ほど俺が入れた食後のコーヒーに口をつけて、ハハッと笑う

この状況を楽しめる余裕があるだけ、お前は幾分マシだよ…

ふと、窓ガラスに映る、北山の顔をした自分は、ひどくグッタリとして見えた

何故か、地震で倒れたはずの俺が目を覚ますと、俺が北山の中に、北山が俺の中に入ってしまっていた

戻り方も、いつ戻るかもわからない

正直、絶望的だ…

お互い見世物にされるのはゴメンだということで、仕方なく俺の部屋へ転がり込んで、同居生活を始めることになったけれど…

不安しかない

相手は、あろうことかあの北山だ

あー、ワタとかならまだ、良かったのに…

「まずは、作戦会議だなーてか、藤ヶ谷ー、腹ヘラね？」

「え？さっき食べたのに？あー、カップ麺…くらいなら」

「おー、わかめラーメン！食おーぜー！」

のんきな北山の横で、俺はため息を付きながら、お湯を沸かした

「あーうめ〜！」

ちゃっかり、俺の家で俺の顔をした北山は、次の缶ビールまで空けて寛いでいる

「藤ヶ谷、飲まねーの？」

「そんな気分じゃ…」

「そう凹むなー、俺の身体も、なかなかだぜ？」

酔ってんのか、変なテンションの北山にガシッと肩を組まれた
北山は、楽観的だし、
ため息の一つも、つきたくなるだろ…

「もういいからさ…とりあえず風呂沸かすから、先入っていいよ」

俺が立ち上がると、北山が大声を出した