長男の涙 6 (智) ページ6
智Side
気付くと僕は、自分の部屋のベッドの上にいた。
あぁ、そうだ…
夜中帰ってきて、
玄関に入ったところで気が抜けたのか意識が遠くなっていって…
なんか、安心したんだよなぁ…
あんなに帰りたくなかったのに。
帰っちゃいけないと思ったのに。
家の空気を吸い込んだら、
何かがぶわっと湧き上がってきて、泣きそうになった。
そこで僕の記憶は途切れている。
そして、次に目を開けたときには
目の前に翔がいたんだ。
唇を噛みしめて、眉間にしわを寄せて…
こんな顔の翔を見たのは初めてで、
どうしてこうなったんだと問う弟に
これ以上嘘をつくことはどうしてもできなかった。
怒りのこもった、でも泣きそうな目をしている翔に、
僕はここ数日のことを、隠さずに話した。
こうなることも、
心配かけることもわかってた。
なのに逃げることしかできなかった自分が情けなくて、
僕は翔に、謝ることしかできなかった。
翔「なんでなんだよ…
俺が、頼りなかったから?」
そう思われても、仕方ないと思った。
疑われたって、信用されなくたって、自業自得だ。
翔「どうして、自分一人でっ……」
そう言って下を向いた翔の顔から、
ポタッと雫が落ちた。
家族を泣かせるようなことをして、迷惑かけまくって、
それの何が長男だ。
みんなが笑っててくれればいいって、
そう思っていたんじゃないのか…
それなのに僕は今、
全く逆の顔を弟にさせている。
智「ごめ…ん……ごめん……ごめんっ」
それ意外の言葉は出てこなくて、
震える声で何度もつぶやくことしかできない。
溢れ出てきそうなものを見せたくなくて、
これ以上出てくるな…って、
蓋をするようにぎゅっと目をつぶった。
その時に感じた2つの温度。
目から頬に流れる冷たい筋と、
それに沿うように触れた温かい指。
さっきまでの冷たい声からの、
穏やかな温かい声。
その温度差に戸惑いながらも目を開けると
翔の優しい顔があって、
小さく一度名前を呼ばれただけなのに
我慢していたものは無意識に僕の目から次々と流れ落ちていった。
冷え切っていた心が温まっていく。
そうだ…僕はこれが欲しかったんだ。
これを求めて、この家に帰ってきたんだ。
夜中に帰ってきたのは、
みんなに気付かれないように着替えを取りに来るため。
でも僕は心のどこかでずっと、
こうなることを期待していたのかもしれない。
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作者名：ちさ
| 作成日時：2013年6月29日 14時
