パパが治してあげようね *ARS* 7 (ページ15)

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松岡先生のお説教　3　(翔) ページ15

翔Side

智にぃが出て行って
他のみんなも仕事に行って、
家の中はシンとしている。

ゆいは幼稚園、
Aはママ友たちとランチらしい。

検査が入っていたのは10時。

慎重に行って時間を使ったとしても、
Aが帰ってくるまでには家に戻れるだろう。

今日俺は、
絶対にやらなければいけない検査がある。

検査を受けるのは、俺の担当の中川さん。
肺ガンで入院している、52歳の男性だ。

入院した時には
すでにガンはかなり進行していて、
悔しいけどオペをしても
完全に取りきれるか微妙なところだった。

でも放射線と化学療法を併用していけば、
成功する可能性もある。

上手くいけば根治も目指せるかもしれない。

なのに、中川さんは治療には後ろ向き。

最初は話すら聞いてくれなくて、
何週間も気休め程度の点滴しかできなかった。

何度も何度も病室に足を運んで、
最近ようやく話をしてくれるようになったんだ。

治療の承諾書にサインしてくれたのも、
ちょうど俺が発作で倒れる前の日のこと。

そして今日が、
治療方針を決めるための大事な検査の日だった。

せっかく「任せる」って言ってもらえたんだ…
俺が行かないわけにはいかない。

翔「おはようございます。
調子はいかがですか?」

『入院してんだぞ。悪いに決まってるだろ』

病室のドアを開けると同時に目に入るのは、
布団もかけずにベッドに寝転がっている
髭を生やした大柄な男性。

頭に手拭いを巻けば
いかにも職人のような風貌をしたこの人が、
俺が担当している中川さんだ。

ちょっと口は悪いけど、これがいつものスタイル。

テレビの情報番組を見る視線は俺には移らなかったけど、
左の口角が微かに上がったところを見ると
機嫌はいいのだろう。

翔「そろそろ、検査室に移動しますよ?」

『あぁ。早く連れてけよ。
俺は待たされるのは嫌いなんだ』

翔「はい。ではすぐに看護師に呼びにこさせますから。
僕は検査室で待ってますね」

新人ナースなんでいじめないように
なんて言いつつ病室を出たとき、
急に咳が出そうになって慌てて唾をゴクンと飲み込んだ。

やっぱりまだ完全には治ってないな…

家を出たときに怠かった身体は、
白衣を着たと同時にスイッチが入ったようで
調子よく動いてくれていたんだけど。

無理やりチャージした力を使い切る前に、
検査だけは終了させないとな。