パパが治してあげようね *ARS* 5 (ページ5)

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さとくんの虫歯　5　(智) ページ5

智Side

父「おまたせ～。
おっ、準備できてるね。」

ドキドキしながら歯医者さんに来てイスに座ったら、
看護師さんみたいな人がエプロンをつけてくれた。

お父さんが来て、なぜだか身体に勝手に力が入る。

昨日はあんなに安心してたのに・・・

お父さんが近くにいてくれるだけでホッとしたのに、
今日は胸がポカポカしない。

また前みたいに、ぎゅって気持ち悪くなる。

お父さんがいつもと違う格好をしてるからかなぁ。

おうちにいるお父さんとは違うもん。

父「よく来れたね～。
えらいねぇ、さとくん。」

マスクを下げてニコッと笑ったお父さんに、
少しだけ胸が温かくなる。

よかった・・・いつものお父さんなんだ。

洋服は歯医者さんだけど、中身はお父さん。
頭を撫でてくれる手も、いつもと同じだ。

でも、お父さんの言っていることは違う・・・

僕はえらいことなんてしてない・・・

智「ぼくが、むしばにしたんだよ?
えらくなんかないもん・・・」

父「え～、そうかなぁ。
今お父さんのこと怖くない?
歯医者さんに来るの、怖くなかった?」

・・・怖かったよ。

靴を履くのも、玄関のドアを開けるのも、すっごく嫌だった。

足を動かしたくない。

だって、どんどん歯医者さんに近づいていってしまうから。

でも、虫歯を作ったのは僕のせいなんだ。

ちゃんと治さないとダメなんだよって、
お父さんも言ってた。

だからこんなふうに怖くなったのも、僕のせいなんだよ。

父「全然怖くなかったの?
今日ここにくるの、楽しみだった?」

智「・・・・んーん。」

父「イスに座って、ここ、ドキドキしてない?」

智「・・・・ん。」

父「ね。もういっぱい頑張ってるじゃない。
さとくんは、自分でここに来たよ?
自分でここに座れたよ?
怖いのに、ドキドキするのに、頑張ったんだよ。
それって、えらいことだと思うけどなぁ。」

僕の胸に手を置いたまま
昨日と同じ優しい顔をしていたお父さんを見ていたら、
鼻の奥がツーンとした。

手をぎゅって握って我慢してたけど、
お父さんがまた僕の目を撫でるから・・・

父「虫歯ができちゃうのはしょうがないって言ったでしょう?
大事なのは、すぐに治療すること。

怖いからって逃げないで、バイキンと戦ってるさとくんはえらい。
悪い子なんかじゃない。」

そうやって優しく笑うから、
僕はまた目から溢れるものが止められなくなるんだ。