パパが治してあげようね *ARS* 5 (ページ3)

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さとくんの虫歯　3　(智) ページ3

智Side

今まで怖いなんて思ったことなかった・・・
ずっと他人事だったんだ。

みんなが歯医者さんに行きたくないって落ち込んでいたのも、
歯を削るときには嫌な音がして、すごく痛いって話していたのも、
全部自分には関係ないって思ってた。

でも、今ならみんなの気持ちがわかる。

胸のところがグーッと押されているような感じがして気持ち悪い・・・

父「さとくん? 唇を噛むのはやめなさい?
血が出ちゃうよ?」

自分でも気づかないくらい、強く噛んでいたみたい。

お父さんに言われて慌てて口を開けたけど、
唇がジンジンしてて少し痛い。

父「あぁ、歯型がついちゃったね。」

唇をめくるときに触れたお父さんの指に、身体がビクッとなる。

お父さんは怖くないってわかってるのに、勝手に身体が・・・

父「ふふっ。そんなに怖がらないの。
さとくんくらいの虫歯なら、痛くはならないよ?」

智「でも・・・みんな痛かったって言うよ?」

父「え～、おかしいなぁ。
そんなはずはないんだけどなぁ。
小さな虫歯なら、痛くなることなんてないんだよ?
心配することはない。」

智「ほんと?」

父「ほんと。
心配なっちゃうのはしょうがないけどね。
さとくんだって、怖くなっちゃうよね。
泣きたくなるのも、わかるよ。」

お父さんの言葉に、また身体がビクッとなった。

お父さんの顔が、だんだんぼやけてくる。

泣いちゃダメなんだよ・・・
僕はお兄ちゃんだから・・・

ただ、お父さんとお話してるだけなんだ。
それなのに、泣いちゃうなんて・・・

そんなのいいお兄ちゃんじゃないもん。

父「怖くなっちゃうのはしょうがないと思うなぁ。
初めてだもん。
不安なことがたくさんあるのは当たり前。
だからちょっとずつ、怖いのを減らしていくんだよ?
お父さんと一緒に。ね、そうしようよ。」

智「うっ・・うん・・・んっ・・ん・・」

父「おっ、さとくんの身体が怖いのを外に出そうとしてるみたいだ。
何が怖いか言ってごらん?」

智「うぅっ・・・だめ・・・だめっ・・んっ」

父「ダメなんかじゃないよ?
ほら、いっぱい出して? お父さんが吸い取ってあげる。」

ぎゅっと抱きしめてくれたお父さんの胸で、
僕は泣いてしまった。

我慢してたのに。早く止めようと思うのに・・・

『いい子だね。』

その一言で、僕はまた、涙が止まらなくなったんだ。