パパが治してあげようね *ARS* 5 (ページ12)

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膀胱炎　1　(翔)　*リクページ12

翔Side

翔「うっ・・・・い・・って・・・」

用を足した後に感じた痛み。

なんだか、ツンとするような、キリッとするような、
そんなような痛みだった。

いったい、なんだったんだ・・・・

そう、数秒間考えてみたものの、
すぐに患者さんを待たせているのを思い出し、

下腹部の痛みなどよくあることだと
気に留めることなく診察室に戻った。

外来が終わればすぐに入院患者の診察が待っていて、
その後にはいくつか検査も入っている。

なんともハードだと思いながらも、
俺なんかよりももっと、
寿命を削るほどに過酷な勤務を強いられている医師もいるわけで・・・

この程度でヒーヒーいってらんねぇなって、
一人でフッと笑った。

翔「あれ? コーくん。また一人でお散歩ですか?」

外来をひと段落させて病棟に向かう廊下を歩いていると、
窓から外をのぞいている、見覚えのある横顔が見えた。

シーってしながら立てた人差し指を
口元につけているこの少年は、脱走の常習犯だ。

俺も今までに何度か、捕獲したことがある(笑)

翔「そんなことしても、もうみんなにばれてるよ～」

近くの看護師も、コーくんこと浩介くんが
脱走してきたことに、気付いているようだ。

俺がつれてくよ、って看護師に目配せをすれば、
ペコッと頭を下げてくる。

コーくんはなぜだか俺になついてくれて、
俺の言うことは聞いてくれることが多いんだ。

それを看護師もわかってるから、
こういうときは俺が小児病棟に連れて行ってやることにしている。

翔「お部屋に戻ろう? みんな心配してるよ?」

浩「ぅぅ・・・・かえりたくない・・・」

翔「どうして?
コーくん、ちょっとお熱があるんじゃない?」

うつむき加減なコーくんの頬は、
赤く染まっていて、目も少しうるうるしている。

体調が悪いのにこんなところを
ウロウロさせておくわけにはいかない。

翔「ほら、今日は特別。
抱っこして帰ろう?」

しゃがんで両手を広げれば、
トボトボと歩いてきて、俺の首に腕をまわしてくる。

脱走理由は毎回同じ。

きっと今日も、
これからコーくんの嫌いな注射が待ってるんだろう。

逃げられないことはわかってるのに、
こうやって脱走してくるのは、
かまってもらいたいという願望もあるからだと思う。

病室で一人は、つまらないよな。

だから、ほんの数分間だけでも、
この子が独り占めできる存在になってあげたいって、そう思うんだ。