パパが治してあげようね *ARS* 12 (ページ40)

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肋骨骨折　2　(潤) ページ40

潤Side

構えたバットを揺らし、ピッチャーを見据える人にかけられる声援。
快音が響けば歓声が上がり、ミスをすれば激励の声が飛ぶ。

スパイクで地面を擦る音も、バットが空を切る音も、速球がミットにおさまる音も。
練習からゲームセットまで絶えず響いていた音の全てが、俺を高揚した気分にさせた。

それはきっと、俺にも野球少年だった時代があったから。
小さなころ熱中していたことは今も変わらずで、体調が悪いことなんてすっかり忘れて熱くなってしまった。

俺の悪い癖だ。一度熱くなってしまうと後先考えずにやりすぎてしまう。
そうして過去の自分の行動を後悔するんだ。

潤「…いる？…いま…いえ…」

自己嫌悪に陥りながらも、カバンから出したスマホに向かって何とか声を出す。
相手は今朝俺が悲しい顔をさせてしまった人。

あんなことをして、自分勝手に困らせて、それでさらに迷惑をかけるなんて…
でももう、助けを呼ぶしかここから動く方法がなかった。

ほんとバカだよなって思うけど、もう家まで自転車で帰る体力がないんだ。

翔「家にいるけど。動けなくなった？」

潤「……ごめん」

翔「楽しかったか？」

潤「うん…」

翔「そっか、ならよかった。迎えに行くから、どっか座ってな。
できれば日陰ね。いい？」

怒られて当然だと思ってた。
制する言葉を無視して、こんなことになってしまったんだから。

翔にぃの優しさが、今は辛いよ。

潤「んっ…はぁ…やべぇなぁ…」

通話を切って、座っているベンチから立ち上がろうとするも、足に力が入らない。
眼の奥あたりがジンジンと痛んで、頭を抱えようと前屈みになると今度は吐き気。

試合が終わるまでは、あんなに元気だったのに…
辛さを感じなかったのは、興奮していたからなのか…

チームメイトはみんな帰ってしまったから、広いグラウンドに俺一人だけ。

せめて周りにだけは心配をかけないようにと、体調が急激に悪くなってからも空元気で振る舞ってたから。
そこでわずかに残っていた気力も体力も全て使い果たしてしまったみたいだ。

それでも、すぐ近くの木陰まで移動する力くらいは残ってるだろう。
そう思って勢いをつけて立ち上がった時だった。

ゴンッ！！

潤「…っく……うぅ…」

傾く身体に、目の前に迫るベンチ。

鈍い音とともに倒れこんだ身体を自分で起こす術はなく、地面の上で激痛の走る脇腹に顔を歪めることしかできなかった。