標的140 ページ47
＊
「すごい、本当に畑がある……！」
扉が開いた瞬間、飛び込んできた光景に思わず息を呑む。
青々と茂る緑に、どこか懐かしい土の匂い。
基地内の照明とはまた違う……暖かな光。
そこには、想像していたよりも遥かに広大な菜園が広がっていた。
「びっくりだよね。この時代のツナくんが作ったんだって」
「こんなことを考えるなんて……やっぱり、ツナさんはさすがです！」
ぐるりと一面を見渡しながら、先を行くふたりを追いかける。
「それじゃあ、ハルはあっちで玉ねぎを採ってきますね」
そう言うと、ハルは足早に駆けて行った。
残された私へ籠を差し出す京子。
「私はにんじんを集めるから、Aくんはじゃがいもをお願いできるかな？」
「任せて。ちなみに何を作るの？」
「ふふ、今日のご飯は……お野菜たっぷりカレーだよ！」
楽しみにしててね、という笑顔に、思わずガッツポーズを決める。
これは気合いを入れて収穫しないとな。
担当場所を探し歩き出そうとして、私はふと──足を止めた。
「──ねぇ、京子」
突然の呼びかけに、奥の畑へ向かう彼女がこちらを振り返る。
「どうしたの？」
「……その」
先ほどから、ずっと引っかかっていたこと。
一瞬のためらいの後、私は思い切って口を開いた。
「さっき、何か……言いかけただろ」
思い出すのはついさっき、廊下での会話。
──頑張ってるツナさんたちのために、ハルたちもできることをしようって。ね、京子ちゃん！──
──うん！お料理するのは楽しいし……それに──
あの時。
どこか悲しげに目を伏せた京子の顔が、どうしても頭から離れない。
京子が僅かに瞳を揺らす。
もしかしたら、聞くべきではないのかもしれない。
けれど。
「良かったら、話してよ」
私の話を真摯に聞いてくれたんだ。
もし力になれるなら。
今度は、私が──
「……やっぱり優しいんだ」
呟いて、穏やかな笑みを浮かべる。
京子は少しだけ困ったように眉尻を下げてから、あのね、と呟いた。
「未来に来てから……私、すごく怖かったの。唯一、ハルちゃんたちとお料理してる時だけが救いだった。辛いことを考えなくて済むから」
でもね、と京子。
「Aくんの話を聞いて、思ったんだ。こんな時でも誰かのことを想えるのって……すごく素敵だなって」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 423人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
オウリ(プロフ) - こまりさん» ありがとうございます~！近いうちに続編公開するのでお待ちください！ (6月14日 12時) (
レス) id: df42654abf (このIDを非表示/違反報告)
こまり - 凄く面白いです！続きが気になります…🤔 (6月14日 5時) (レス) id: fd7a7e37b1 (このIDを非表示/違反報告)
七粍(プロフ) - きーち1さん» お返事遅くなりました…！コメントありがとうございます^^*おかわりどうぞ！！！(笑) (2022年3月27日 21時) (レス) id: d69433a459 (このIDを非表示/違反報告)
きーち1(プロフ) - 展開、設定めちゃくちゃ好きです！！ご馳走様です！！続き早く読みたいです！！おかわりください！！！！！ (2022年2月28日 6時) (レス) id: a03c85b354 (このIDを非表示/違反報告)
微々(プロフ) - フランとベルさん» ありがとうございます〜！！^^*私もサクサク更新できるように頑張ります…！ (2021年11月18日 11時) (レス) id: d69433a459 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：オウリ | 作成日時：2020年11月29日 23時
