標的132 ページ39
突然、廊下中に響き渡った怒声。
踏み出しかけた足を引っ込め、私は咄嗟に近くの部屋へ飛び込んだ。
「戦力差は……。参加しようが引き延ばそうが、ここにいる人間は……！！」
この声……ラル？
扉の陰から耳を澄ます。
言葉の端々に滲む、苛立ちと焦燥。
息を殺しそっと覗き込めば、そこにはやはりラルの姿が。
そして、
「……、お前に委ねられているのは……どちらの地獄を選ぶかだ」
その現実を突きつけられたツナの表情は、ここからでは窺えなかった。
壁にもたれるラルは、あまり体調がよくないのだろう。
……そんな素振り、今まで一度も……
“今すぐ様子を見に行かないと”。
その思いとは裏腹に、無意識の躊躇いが私の足を縫い留める。
「少しでもマシな選択を……、お前の義務だ。甘い考えを捨てろ」
ラルは冷たく吐き捨てると、億劫そうに立ち上がり、そのままひとり去っていった。
残されたのは、呆然と立ちすくむツナの背中だけ。
……盗み聞きなんて、何やってんだ私……
どこか罪悪感を感じつつ、私はようやく物陰を抜け出した。
「……や。ツナ」
「A……」
遠慮がちに声をかければ、一瞬驚いたようにツナがこちらを振り返る。
ツナはどこかぎこちない表情を浮かべ、再び視線を落とした。
どちらも言葉を交わすことなく、流れるのはただ沈黙のみ。
頭に浮かぶのは、先程のラルのセリフ。
厳しい言い方だったけど……彼女の言ってることは正しかった。
どちらの未来でも、過酷な運命が待っている。
その選択をしなければならないなんて、一体どれほどのプレッシャーか。
「オレ、どうすれば……どっちを選んでも地獄だなんて……」
「っ……大丈夫だよ、きっと！」
なんとか励ます言葉はないかと、私は無理やり笑顔を作ってみせた。
「やってみなきゃ分かんないしさ、なんとかなるって絶対！」
こんな時こそ、ツナの助けになりたい。
現状は何も変わらないけど……せめて、気持ちだけでも前向きでいなきゃ。
「だから……」
「──いよ」
ぽつり。
私の言葉を遮るように、小さく口を開いたツナ。
思わず聞き返そうとして、耳を疑う。
「Aには分かんないよ」
「……え」
ぴり、と、肌の張りつめる感覚。
一度吐き出してしまえばもう、止まらない。
「いきなりこんな選択迫られて……お、オレのせいで、大切な人たちが死ぬかもしれないのに……
──そんな無責任なこと、言えないよ！」
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オウリ(プロフ) - こまりさん» ありがとうございます~！近いうちに続編公開するのでお待ちください！ (6月14日 12時) (
レス) id: df42654abf (このIDを非表示/違反報告)
こまり - 凄く面白いです！続きが気になります…🤔 (6月14日 5時) (レス) id: fd7a7e37b1 (このIDを非表示/違反報告)
七粍(プロフ) - きーち1さん» お返事遅くなりました…！コメントありがとうございます^^*おかわりどうぞ！！！(笑) (2022年3月27日 21時) (レス) id: d69433a459 (このIDを非表示/違反報告)
きーち1(プロフ) - 展開、設定めちゃくちゃ好きです！！ご馳走様です！！続き早く読みたいです！！おかわりください！！！！！ (2022年2月28日 6時) (レス) id: a03c85b354 (このIDを非表示/違反報告)
微々(プロフ) - フランとベルさん» ありがとうございます〜！！^^*私もサクサク更新できるように頑張ります…！ (2021年11月18日 11時) (レス) id: d69433a459 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：オウリ | 作成日時：2020年11月29日 23時
