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波は私たちのすぐ近くまで来るけれど決して爪先には届かない。
何度も何度も繰り返すそれがもどかしい。
「そういえば優太さんとは桜も見ましたね」
「…え」
「もしかして覚えてない…？」
ぽかんとした表情をするから、もしかしてと思う。
「いや覚えてるよ」
「ほんとですか？」
「俺もちょうどその時のこと思い出してたからびっくりしただけだよ」
なんだ、よかった。
「偶然ですね」
「な。綺麗だったなあれ」
「また行きたいです」
「うん。来年も行こう」
春も夏も秋も冬も
一緒に同じ時間を過ごして、
「これからも優太さんとの思い出がたくさんできたらいいなぁって思います」
気づけば優太さんの横顔を見ながらそんなことを呟いていた。
「…あんま見んな。恥ずかしいだろ」
「あ、ごめんなさい」
私が謝ると優太さんがこっちを向いてくれた。
「ふふ。なんですか？」
“あんま見んな”って言ったくせに、優太さんだって私のことをジーっと見るじゃん。
次第に優太さんの目つきが変わっていくから息をのむ。
元々私たちの距離が近かったからゼロ距離になるまで一瞬だった。
キス、されたんだ。
そう頭で認識するときにはもう唇は離れていて、
｢うわ…まじごめん…｣
「どうして謝るんですか…？」
苦しいくらいにドキドキしていることを優太さんにどうにか隠そうとする。
「だって俺らまだ付き合ってないし…それなのに俺…」
そっか。付き合っていない男女はキスをしないのが普通なのかな。
私はイマイチ普通の基準が分からないものだから。
「忘れて」
｢…自分からしておいて？｣
｢あっ…そうだよな。じゃあ殴っていいっす…｣
｢殴りませんって…｣
そんなにバツの悪そうな顔をしなくてもいいのに。
｢避けてくれればよかったのに｣
｢嫌じゃないから避けなかったんですよ｣
一瞬だったけど、嫌だと思ったらいくらでも抵抗できたもん。
「嫌じゃないの…？」
「はい。でも結構照れてます。私だけですかね…」
｢俺もだよ。自分からしたくせにな。
あーほんと急にごめん…。なんか、抑えられなかった｣
「謝りすぎです。全然いいんですよ。優太さんだから」
ファーストキス。ではない。
けど甘酸っぱかった。いっぱいドキドキもした。
きっとこういうのを求めていた。
私は経験する順番を間違えたんだと思う。
あの人に溺れる前にもっと甘くて柔な経験をしておくべきだったのかな。
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作者名：來
| 作成日時：2020年12月13日 19時
