8日目 ページ9
“A”
ふと、万次郎の声が聞こえた気がした。
時計を見るともう正午の０時。
彼は大丈夫だろうか。
本人は大丈夫と笑っていたが、やっぱり心配だ。
昨日の今日だし、色々と不安定だろう。
「あの、今日は早退させていただいてよろしいでしょうか。」
部長にそういうと、部長は私を睨みながらガムをくちゃくちゃと噛んでいる。
「なにぃ、彼氏でもできた？ったく、近頃の若者は……」
そう言われて反論しようとするが声が詰まる。
中学の時は付き合っていたが、今の関係に名前はあるのだろうか。
……やめよう考え込むのは。
それよりもせっかく貰った早退。万次郎が心配だ。
私は急いで家に向かった。
家の前までつき、ドアノブを捻る。
腕時計の時刻は1時半だった。
私は勢いよく扉を開き、ただいまーと大声で言う。
万次郎の姿は見られない。
靴を投げ飛ばしながらリビングへ向かう。
リビングには誰もいなくて、静寂だけが取り残されていた。
また、いなくなってしまったのだろうか。
早まる鼓動に気づかない振りをして、私は寝室の扉を勢いよく開ける。
何度か視線を移した先に、万次郎は居た。
ベットと壁の隙間で布団にくるまっていた。
私は安堵の息をつき、万次郎の方へ行く。
万次郎は私に気づいてないようだった。
また真っ黒な瞳はどこか虚ろだ。
「万次郎。」
彼と目線を同じにして、名前を呼ぶ。
万次郎はゆっくりと視線を動かし、黒い瞳に私が写った瞬間私を抱きしめた。彼は無言で私の肩に顔を埋めている。早く帰ってきて良かったと心から思った。
「……A。」
15分くらい経っただろうか、顔を埋めたままの万次郎が私の名前を呼ぶ。
「……俺ね。後悔してないよ。
東卍の奴らは、今幸せなんだ。ケンちんはバイク屋やってると思うし、三ツ谷だってミシンうめぇから服関係の仕事してると思うし、たけみっちだってひなと結婚するんだ。最高だろ……。」
万次郎は楽しそうだった。
東卍のみんなの幸せを喜んでいるんだ。
でも……と万次郎は続ける。
その声音は徐々に低くなって行った。
「……そこには俺は入れないんだ。」
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雪ん子(プロフ) - 最高です！！ってことは最終話軸？最終話時空の話見るの初めてなので何だか新鮮でした！！ (7月23日 11時) (
レス) @page30 id: fa924563b5 (このIDを非表示/違反報告)
らずぴす(サブ垢)(プロフ) - 瀬琉ﾁｬﾝ.さん» コメントありがとうございます。そう言って貰えて光栄です……！ (2022年8月6日 2時) (レス) @page30 id: f3216aef7e (このIDを非表示/違反報告)
瀬琉ﾁｬﾝ. - とても深いストーリーに感動しました...!! 本誌の内容が良い感じに組み込まれつつハッピーエンドで完結できる作者さんの文才うらやましいです((( (2022年8月2日 23時) (レス) id: e12b8018fd (このIDを非表示/違反報告)
らずぴす(サブ垢)(プロフ) - 七瀬太さん» コメントありがとうございます！私もとても楽しみにしています！ (2022年7月30日 16時) (レス) id: f3216aef7e (このIDを非表示/違反報告)
七瀬太 - すごい泣ける🥹公式？の方の最新刊も本当に楽しみです！ (2022年7月25日 16時) (レス) @page30 id: 320abee8c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：らずぴす | 作成日時：2021年9月24日 9時
