風ト緋ト羅生ノ狗ー 険悪 ー ページ13
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モンゴメリと彼女が船内で茶会をしている頃、船上では大規模な荷積みが行われていた。
人数はざっと数えるだけでも百人近くは居るだろう、食料に燃料に武器、不足しがちな消耗品等は、早い内に補給をしなければならない。
彼等に指示を出しているのは、襞がふんだんに使われた豪奢なドレスに身を包んだ女性___『マーガレット』だった。
「本国からの積み荷は 第三船倉に運んで、ぶつけたら弁償よ」
積み荷が船に運ばれて行く様子を眺めると、彼女は大きな溜息を吐く。
「全く......何でこのアタシが荷積みの指揮なんて......」
この様な役目は自分じゃあ無くても良い筈だ。不機嫌そうに眉間に皺を寄せれば、端正な顔が歪んでしまう。
そんな彼女の苛立ちを、更に悪化させる存在が居た。装飾された椅子に腰を掛け、黙々と書物を読む黒衣を纏った青年___『ナサニエル』の姿である。マーガレットは彼の姿を目にした途端、ピキッと額の血管が切れる音が聞こえた。
「うるさい」
「は?」
未だ何も云っていないのに、マーガレットはナサニエルに「うるさい」と、注意をされてしまった。彼女は突然の事に、意味が判らないと云う様に相手を睨みつける。
「視線が邪魔です 神の言葉が聞こえない」
ピキッ
彼女の中で、血管が更に切れる音がした。自分が何かを云い、注意を受けるなら未だしも、ただ相手を睨んでいただけで「うるさい」「邪魔」とは、随分な物言いをしてくれる。
「あらそう、牧師様は
『塵は塵へ還る』
指を鳴らした瞬間、ナサニエルが目を通していた聖書があっという間に風化されてしまった。これが、マーガレットの異能力『風と共に去りぬ』の力だ。巻き起こす風により、物質を風化させる事が出来るのである。
「......『創世記』3章19節」
先程のマーガレットが言った科白だ。
「皆が戦争で陸に散っている間、組合の拠点であるこの船を守るのが、アタシ達二人の任務よ 忘れたの?」
「お嬢様こそ お忘れですか? 罪深き者に裁きを下すのが私の神命、敵など幾らでも来ればいい 己が業罪を命で
眼鏡を中指で押し上げ、風化した本を閉じると、ナサニエルは彼女にゆっくりと近付いてくる。
「それとも貴女も贖罪をお望みですか?」
「貴方なんてアタシの靴を磨く資格もないわ」
険悪な雰囲気だった。
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ミサぽん(プロフ) - 夜宵 ―ヤヨイ―さん» 有難うございます!コメント、本当に嬉しいです。続編も頑張りますっ (2019年7月17日 23時) (レス) id: ec52e47c5d (このIDを非表示/違反報告)
夜宵 ―ヤヨイ― - 第二シリーズお疲れさまでした(拍手) 続編も心待ちしております、ミサぽんさんのペースでこれからもよろしくお願いします。 (2019年7月17日 23時) (レス) id: 03eb66dcd7 (このIDを非表示/違反報告)
ミサぽん(プロフ) - 夜宵 ―ヤヨイ―さん» コメント有難うございます、何回もしてくださり 本当に嬉しいです! 楽しんでもらえるよう 頑張りますっ (2019年6月16日 16時) (レス) id: ec52e47c5d (このIDを非表示/違反報告)
夜宵 ―ヤヨイ― - 早速の続編!ありがとうございます!!(感涙) (2019年6月16日 16時) (レス) id: 03eb66dcd7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ミサぽん | 作成日時:2019年6月16日 15時