綿菓子と香辛料 2

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心の中はぐちゃぐちゃで、悲しみで立っているのもやっとの状況なのに、私は何事もなかったかのような顔をして、お母さんの作ってくれた夕飯を食べている。



今世紀最大の大失恋をしたと思っているのに、他人から見れば、ありふれた数ある失恋の中の一例に過ぎない。



始発に乗るために、明け方、玉森さんの部屋を出た。



寝室を出る直前、玉森さんの寝顔を見つめて、髪を撫でてしまうというルール違反を犯したことに、玉森さんがどうか気づいていませんように。




「昨日、どこに泊まったの？」



「・・え？沙絵ちゃんちって言ったじゃん」



「本当に？」



「・・・うん。どうして？」



「疲れきった顔してたから」



「遅くまで起きてたの」



「・・・そう」



お母さんは納得しきれていないようだったけど、それ以上追求はしなかった。



「あ、そういえばおめでたなのよ」



「え？」



「和香。赤ちゃんができたんだって」



「本当に？！」




お母さんと手を取り合って、お姉ちゃんの妊娠報告にひとしきりはしゃいだ。




「あ、玉森さんにも・・・



「ん？」



「・・・ううん、何でもない」




"玉森さんにも教えてあげよう"



無意識に、そんな言葉が口からこぼれそうになった。






やっぱり玉森さんなんだ。





嬉しいことを、私が真っ先に報告したいのは、他の誰でもない玉森さんなんだ。




「ちょっとA？どうしたの？！」




「・・お母さ〜ん」





子どもみたいに、お母さんに抱きついて私は思いっきり泣いた。






あのね、好きな人がいるの。





本当に本当に大好きなんだよ？





お姉ちゃんに赤ちゃんができたんだよって、真っ先に報告したいのに、それが今の私にはできなくて、そのことがこんなにも悲しいの。




赤ちゃんが生まれたら、一緒にお祝いに駆けつけたかったな。

一緒にプレゼントを買いに行って、全然決められない私に、きっと玉森さんは呆れた顔して、最後には怒り出すの。




できないのに。




もう、そんなことできないのに、私は未練がましく、玉森さんとの未来を想像してしまう。





「A？」




「・・お母さん」




「何？」





「私、好き人がいるの」




「そう」




「でもね、ダメだった。うまくいかなかった」





「・・・そう」





無理に笑顔を作る私の背中を、お母さんは黙ってさすってくれた。






泣くのは、今日が最後だ。





明日からはもう、玉森さんを振り返らない。

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