三つ編みをほどかれた日(桃色編)・《2》

53・藤ヶ谷さん ページ5

「藤ヶ谷さん！待って下さい！」



足早に歩く俺を、Aが走って追いかけてくる。


追い付かれないようにスピードを緩めない俺のカッコ悪さを、誰でもいいから笑って欲しい。



「・・ねぇ、藤ヶ谷さん！」




腕を掴まれて振り返った先には、息苦しさに顔を歪めるAの顔。




「・・・走んなくてもよかったのに」




「だって藤ヶ谷さん、どんどん先に行っちゃうんだもん。一緒に帰るために迎えにきてくれたんじゃなかったの？」




あまり広くない部屋の中に、玉森とAが二人きりでいるのを見た時、俺の心は簡単に掻き乱された。




仕事中の玉森への一方的な交際宣言は、大人として普通に有り得ない。




「・・・ごめん。何か、焦っちゃって」





Aの眉が、八の字に下がる。




自分の嫉妬心に一番困惑してるのは、俺なんだ。





「・・藤ヶ谷さん」





「ん？」





「私、言えたよ？玉森さんに、お互い幸せになりましょうねって、ちゃんと言えたの。それって藤ヶ谷さんがいてくれたからだよね？」

　




何か、たまんなくて・・




彼女の素直さがたまらなく愛しくて、溢れだしそうな気持ちごと、Aの身体を抱きしめた。





「・・・・みんな見てるから」




「いいよ」




「恥ずかしい・・・」





まだ、未完成で脆いけど、やっと、気持ちが繋がったような気がする。




やっと、君の気持ちが俺の方を向いたんじゃないかって実感してる。






だって、俺の胸の中で、君は顔を赤くして、だけど抱きしめるその力を、拒まずにいてくれるから。





「A」




「・・はい」




「A！」





何度も名前を呼ぶから、何度もそれに答えて欲しい。








君に、俺が馴染むまで。

俺に、君が馴染むまで。

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