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”絶対嫌よ!私の部屋には入れないから、自分で部屋を借りられないなら実家に帰りなさい”
電話口でそう怒鳴って、お姉ちゃんは一方的に電話を切った。
薄情な姉に絶望しながらも、私は少ない荷物を片っ端からキャリーバッグに詰めていく。
タイムリミットまでには、充分余裕がある。
北山さんが帰ってくるまでに荷物をまとめて、この部屋を出ていくと決めた。
顔を見て別れ話をする潔さは、私にはまだ備わっていない。
荷物を詰める手の甲に、ポタポタと涙が落ちる。
北山さんと一緒にいた時間は、ほんのわずかにしか過ぎないのに、あの人は簡単に私の気持ちを拐ってしまった。
こんなに好きにさせて、こんなに別れたくないと思わせて、だけど・・・・だからこそ、月城さんに北山さんを返さなきゃって、そう思った。
無理をして、私と一緒にいて欲しくない。
北山さんのために私ができることは、きっと月城さんより少ない。
家事なんか好きじゃないし、お金も全然稼げない。
知的な会話もできないし、おまけによく食べるから食費もかかる。
いいとこなんて、やっぱり一つもないじゃない。
誰もいないのをいいことに、声をあげて泣いた。
「何だよ、近所のガキが泣いてんのかと思ったら、お前が泣いてんのかよ」
何の前兆もなく現れた北山さんは、私を見るなりうんざりしたようにそう言った。
「何だよ。何見てんだよ。ケンカするか?」
「・・・どうして?」
「あ?」
「・・・・何してるんですか?」
「ここは俺の家なんだよ」
「そうだけど・・・そうじゃなくて、月城さ・・
「そんで、お前の家でもある」
「・・・・」
「俺を置いてどこに行く気だよ」
「・・・お姉ちゃんのところ」
「ふ〜ん」
納得したように頷きながら、北山さんはキャリーバッグから私の洋服を取り出す。
「あの・・・」
タオルや化粧水、それからいくつかの本も、北山さんは勝手に抜き出して、あっという間にキャリーバッグの中身を空にしてしまった。
「どうしてこんなことするの?」
「家出の邪魔してる」
「・・・北山さ・・・・
物が散乱したリビングで、北山さんは私の身体を抱きしめた。
散らかった部屋の中で、私たちは途方もなく長い時間、ただ黙って、お互いを抱きしめていた。
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みき(プロフ) - マキさんご無沙汰してます。そして今頃すみません。全てのシーン私の抱いているみっくんでした。すごいなぁ〜。こんな素敵なお話を描けるマキさんは本当に優しい人なのだろう。私ではないけど彼女の私は沢山幸せをもらいました。さびしいです。ありがとうございました。 (2021年11月1日 15時) (レス) @page49 id: e2d6b3aa5d (このIDを非表示/違反報告)
わわか(プロフ) - 1つずつ終わっていくのがすごく寂しいです。マキさんの言葉、物語がとてもとても好きでした!他のメンバーの話も楽しみであり、終わってしまうのがさみしくもあり。最後までしっかり読ませていただきます! (2021年5月28日 17時) (レス) id: 3db566fc35 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - ちい★さん» 北山くんが主人公のお話、終わっちゃいました。私の書く北山くんが、北山くんをお好きな皆様にも温かく受け入れてもらえて嬉しかったです!ありがとうございました(*^^*) (2021年5月23日 20時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - ちはるさん» 元は横尾さんがお好きだったんですね(*^^*)北山くんと横尾さんの関係性がとても好きなので、二人のお話が書けて私も楽しかったです!身長差もそうですけど、情熱と冷静みたいな対極な二人がいいなぁと思っています\(^^)/ (2021年5月23日 20時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
ちい★(プロフ) - 終わっちゃって寂しいです…。マキさんの書くお話は苦しくなったり幸せになったり…リアルで大好きです!!!読み返してきます★ (2021年5月16日 11時) (レス) id: aba16733a8 (このIDを非表示/違反報告)
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