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六本木のクラブには、
いつも2人と裏口からしか入ったことがなかったが、
仕方なく通常のエントランスに並んでいると、
奥の方が騒がしい様子だった。
すると、バタバタと出入りする黒服の1人がユリに気づいた。
「あの…灰谷さんが…!」
訳も分からず中に通され付いていくと…
出てけ!という怒鳴り声、
更にはグラスの割れる音がした。
奥のVIPルームから、
派手な女たちと強面の男たちが逃げ出てくる。
開いた扉からユリが顔を見せると、竜胆と目が合った。
竜胆が「ねぇちゃん…?」と声をかければ、
ソファで倒れ込んでいた蘭がムクリと起き上がった。
「お誕生日おめでとう…」
ユリが声をかけても、
蘭は酔いで幻が見えているとでも思っているのか、
ボーッと見つめ返すばかり。
「帰ろ…?」
と、手を引かれて初めて、蘭は言葉を発した。
「おぅ…」
「ちゃんと片付けてからね?」
その後、従順な僕のように、
ガラスの破片を掃除し始めた蘭を、
舎弟たちは遠目に、奇跡を見るかのような目で見ていた。
手伝おうとするユリに蘭が言う。
「ケガすんぞ…」
「誰のせいよ…
あ、竜ちゃんも手伝って」
竜胆は、
「ねぇちゃん…ホントにありがとう…」
と涙目で感謝した。
無事に片付けは終わり、ユリはタクシーで蘭を連れて帰った。
――――――――――――――――――――――
浴びるほど酒を飲んだのか、
蘭はユリにもたれ掛かったまま動かない。
「今日は特別に、いいところ連れてってあげる」
とユリが言えば、蘭は少しだけうなずいた。
タクシーを降り、なんとか蘭を立たせて、
引きずりながら、エレベーターに乗る。
部屋の中に入って初めて、蘭は意識が戻ったようだった。
「…は?ユリの家じゃん」
「私がいない間、パパも出張に行ってるから…
ご飯作ってあげようと思って…
お腹いっぱい?」
「酒しか飲んでねぇ…」
「じゃあ…お粥でも作るね」
ユリの作ったお粥をすすりながら、
蘭は少しずつ正気に戻ってきた。
「急だったから、
凝ったものは用意できなかったけど…
子どもの頃みたいにソファで食べよ?」
そう言ってユリは、手作りのモンブランを持ってきた。
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作者名:あたそ | 作成日時:2023年3月20日 23時