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さん ページ3

こつり、かたい地面を革靴のかかとが打ち鳴らす。

襤褸布の人物が後ろに一歩下がると近くのコンテナが上から圧縮されたようにぎしぎしと潰れていく。
頭を覆う布の下で赤い瞳が月に反射した。

太宰は無言で再び近付いた。

その人物は、太宰の気配に押し負けた様に布を翻して進んだ先には…。

「はっ、捕まえたぜ!!っ!うお!?」

襤褸布の人物が勢いよく中原にぶつかり、中原が捕まえようとした瞬間、夜の闇を弾き飛ばすように稲妻のような閃光が迸った。

磁石の反発のように反対の方向に弾き飛ばされる二人。

襤褸布の人物は太宰のいる方向に飛ばされ、太宰に体当たりを食らわせる形となった。

「どんな面か拝ませてもらうよ」

周囲のコンテナの変形が止まり、動かなくなった此の小さな人物の濡れた布を一気にはがした。

「ふぅーん」

「くそっ、そいつ異能力者か?」

馬乗りになってその人物の細い両手を地面に縫い付け、顔を覗き込む太宰に続いて身体のあちこちについた埃を払いながら中原がその人物に近付く。

「どうやら、森さんの言っていたモノだね」

「船を沈めた野郎か」

「そうだね。でも彼、商品の様だよ。首にタグがついてる」

「つうことは商品が商品を沈めたって事か」

「んー、後は任せたよ。今夜は玲子さんと予定があるのだよ」

「は?待て。また女のところ行くのかよ!」

「今日は聖なる夜だからね。じゃあね〜」


太宰の指示のおかげで黒服の部下たちは全員、海に沈んだ積荷の引き上げに行ってしまった。

残されたのは中也と犯人たるこのずぶ濡れの少年。

「本っっっ当にウゼェ嫌がらせだぜ。
あいついつか殺す」


独り言ちたが、声は夜の空に吸い込まれた。

ため息を1つ吐き、少年を見つめる。

それにしても綺麗な顔してんな。

が、雪も積もり出したこの身も凍るような寒さの中、濡れた人間を背負うのは気が引ける。

何故なら濡れたくない。


爪先で突いてみるが起きる気配はない。

重力操作でぱぱっと運ぶか。

干渉する為に青白い頬に手を伸ばし触れた。
驚くほどの冷たさ、と思う間も無く勝手に浮かび上がる其奴。

俺はまだ、重力操作をしていない筈だったのに自身を取り巻く異能発動時の灯り。


逃げられてたまるかっ!!!

慌てて其奴の手を掴み、重力を調節して地上へと降りた。

異能の調子が悪い?

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作者名:蘭兎 | 作成日時:2019年8月1日 22時

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