marionette doll【霧隠ラント】

2，転校 ページ5

カリカリ…と、黒板の音がする。
私の担任の先生になる、少々風変わりな先生…臼見沢先生は文字を書き終えると、前に向き直り「望月Aさんです。遠くの学校から越してきたそうですよ」と軽く私の紹介をしてくれた。
良かった…スっと話を振ってくれたから、戸惑うことなく話せそうだ。

「今日からお世話になります、望月Aです。
皆さん、よろしくお願いします」

なるべく失礼にならないように…と教わった角度でお辞儀をすると、拍手の音が聞こえてきた。
…良かった、上手くやっていけそう。

「それでは、あちらの席にどうぞ。…ホームルームを続けましょうか。」

私が座ったのを確認すると、臼見沢先生は、今日の日程を話し出した。私も話を聞こう…と荷物を置いて、顔を上げると、近くからヒソヒソと声が聞こえてきた。
よーく耳を澄まして辺りを見渡すと、斜め前に座った赤毛の男の子が「なぁなぁ」と、私を呼んでいるようだった。

「オレ寺刃ジンペイ！よろしくな！」

小声──彼にとっては恐らく小声──で彼は自己紹介をしてくれた。よく見ると、赤毛は上の方に耳のような癖がついていた。目はまん丸で自由で…なんだか、猫みたいな子だ。

「望月Aです。よろしくね」

スっと手を出されたので、私はそれを握手だと受け取り手を差し出す。私の見解が合っていたのか、ジンペイ君は満足そうにニコリと笑った。

「なぁなぁ、芸能基準ってモデルとか？それともアイドル？」

「あぁ、私は…」

と、答えようとした時…臼見沢先生がジンペイ君？と声をかけた。
教卓の前から「ちゃんと話を聞いていましたか？」と問いかける先生。
もちろん聞いているはずはないのだが、ジンペイ君はさらりと「聞いてます！」と答えた。

「そうでしたか…それでは答えてください。今日の体育が何に変更になった、と私は言いましたか？」

「え！？体育無くなるんですか！？」

「…私は体育が無くなるとは一言も言ってません。
…ちゃんと話を聞いてくださいね」

どうやらジンペイ君は、先生に嵌められたようだ……
それは酷い！と先生に抗議しているが、周りの生徒たちからはジンペイが悪い！と笑われている。

ジンペイ君は、そんな周りにも弁解を続けているが……大爆笑に包まれた教室では、誰もジンペイの弁解は聞こえていないようだった。

…暖かいクラスだ。

先生も、ジンペイ君も、周りの子達も…本当に、幸せそうで……この学園は、本当にいい学園なんだろう。


ただ1つを、除いては。

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