落花流水【横浜流星】 (ページ1)

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“忘れられない人っていますか？”

「…なんじゃこの質問。」

某深夜番組の街頭インタビューで呼び止められ咄嗟に出た言葉がそれであった。

マッチングアプリで知り合った男性と映画館に行ったはいいものの映画のエンドロールが流れた瞬間、立ち去ろうとした男性に興冷めしてしまい飲みに行かず解散。
一人でラーメンを食べた帰りの人通りの少ない駅前でまさか声を掛けられるとは思わなかった

向けられたマイクとどでかいカメラ、お気持ちばかりの照明に眩しさを感じながらもその質問に顔を歪めている

ディレクターと思われる髭面の男性は私にマイクを向け、返答を待っている

「…これは恋愛の意味ですか？」

“できれば恋愛でお聞きしてますね”

これが地上波で放送されるかもしれないと思うと化粧直しぐらいしてくればよかったと悔やむ。
そう思うと時々いる深夜でも化粧崩れなど気にせず綺麗な女性は本当に美人なんだと感心する

「…さっきアプリで知り合った男性ですね。映画のエンドロールで出ようとして興冷めしました」

こんなテキトーな回答、撮り高もないと思い近況を伝えた。
だが思ったよりディレクターの男性は興味を示し追加で質問をしてきた

“お姉さん映画はエンドロールもちゃんと見たい派ですか？”
「ええ、エンドロール見るまでが映画じゃないですか？」

当然のように答えたこの回答。
インタビュー終了後にディレクターが一応放送日を伝えてくれたため、「一応」チェックした

「ええ、エンドロール見るまでが映画じゃないですか？」

がっつり全部使われていた。
ラーメンを食べた後でテカった肌とまるで通のようなドヤ顔ががっつり全部放送されていた

深夜にビール片手に見てようやく気付いた
地上波全国放送で顔を晒し、おまけに醜態を晒し親兄弟になんと言われるか。

頼む、友人も職場の人間も見ているな。
そしてその興冷め相手も見ているな。もう連絡先ブロックしてしまったけども

「まともに答えるべきだったな…」

ビールで喉を潤し、インタビューされた日を思い出す

忘れられない人はいますか
あのディレクターの声でその質問が過る

忘れられない人といえば、初恋の相手や元カレを思い浮かべるんだと思う
マッチングアプリの相手などと回答するのはお門違いなのでは？

…いや。もう一人いた

『先生』

…珍しい名前だったな。あの子。
苗字も名前も珍しいから忘れられない

「…横浜流星。」