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視線の先 後編 ページ5

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 特になにも話すことはなく、二人でグラウンドを眺めていた。気が付けば綱引きは終わっており、借り物競争が始まっていた。基本的に足の速さより、運や人脈が勝負を分けるため、出場選手のほとんどが文化部の運動が苦手そうな生徒だ。むしろ、一人の出られる競技に制限があるなか、足の速い人をここに費やしてしまうのは得策ではない。はずなのに、
「おっ、あの赤ブロのやつ速いなー。ぶっちぎりじゃん」
 一哉は感嘆の声をあげた。グラウンドでは、一人の選手が他を大きく引き離し、お題の書いてある紙に到達していた。
 速い。足の遅い生徒が多いから、というだけではなく、明らかに次元が違っていた。
 同意を得られると思っての発言だったが、理苑からは何の反応も無い。不思議に思って理苑を見ると、自分の言葉など耳に入っていないようにその生徒を見つめていた。また、何か気になっているのだろうか。
(……いや、いつもとはちょっと、違う?)
 理苑の目は、普段とは違ういろを帯びていた。その様子に、一哉は言い様の無い不安を感じた。
 ワッ、と周りがざわめく。ハッとしてグラウンドを見ると、先ほどの生徒が走って来ている。そのスピードはまったく衰えず、正面から見るのはまた、違った迫力があった。
(ってか、何探してんだ? 赤ブロに物貸してやるやつなんていないだろ、………………って、は?)
 彼はこちらに走ってきていた。そう、こちらに。
「三神っ!」
「……っえ、は?」
 男子の様子を見ていた理苑が、自分の名前を呼ばれ我に返った。その時にはもう、その男子に手を握られていた。
「来てくれっ、一緒に!」
「ちょっ、待っ、はや……!」
「理苑!」
 手を引いて、走り出す。理苑は足を縺れさせながらも、必死に付いていった。あっという間に二人がゴールテープを切るのを、呆然としながら見ていて、グラウンドの向こうから聞こえる歓声が遠い世界のものであった。
 文字通り、突風のような出来事に、白ブロックの人間は唖然としていた。
 一哉は現状を把握したくて、応援席のギリギリに立つ。まだよくわかっていない表情で理苑は立っていて、彼女の手はあの男子と繋がれている。いつもの理苑なら、嫌悪を露に振り払っているはずだ。二人を見て、何故だか苛立った。何なんだ、一体ッ。



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#4 苛立ち 前編→←#3 視線の先 前編



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ゼファー(プロフ) - Kirariさん» ありがとうございます。これからも頑張ります。 (2021年2月8日 8時) (レス) id: 758eda2cb0 (このIDを非表示/違反報告)
Kirari - すごいおもしろかったです!内容もすごくおもしろいし、キャラも、みんな個性あっておもしろかったです!これからもがんばってください! (2021年2月7日 21時) (レス) id: 659499b88d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゼファー | 作成日時:2021年1月15日 11時

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