終焉を知らせるもの part2 ページ4
「入るよー?」
数拍置いて、部屋の扉が開く。
器の乗ったトレーを片手に部屋に入って来たのは、銀色の髪と
「アイリ」
「具合はどぉ? まだきついかなぁ?」
怜悧な印象を与える容姿とは真逆の、のんびりとした声で彼女は言う。
「もう大丈夫。色々と心配をかけてごめんね」
「いんやぁ、気にしなくていいんだよ。ワタシもぉ、キミといられてー、楽しいのさぁー」
へんな節をつけてそう言うアイリに、ユウは思わず笑ってしまう。
「ユウちゃんは子猫みたいだねえー。にこにこ、って感じの笑い方するよぉ」
「猫じゃないよ、わたしは。笑顔が魅力的とはよく言われるけど」
少し拗ねたようにユウが返すと、アイリは左手に持っていたトレーを差し出した。
トレーに乗っているのは、鶏肉の入った粥を持った器だ。湯気を立てているそれは、米を好む彼の食欲を誘った。
「ご飯だよぉ。食べないと、動けないからねぇ」
「ありがとう。アイリの作るご飯、とっても美味しいんだ」
彼女の作る食事は、貧乏舌――もとい、多くの料理を「美味しい」と言ってのけるユウの舌でも、「とても美味しい」と言えるくらい美味なものだった。あっという間に皿を空っぽにしてしまうくらいには。
それゆえか、瀕死の深手だったはずの体も、目覚めて三日しか経っていないというのに殆ど回復している。ユウが天使であることを加味しても凄まじい回復速度だ。
ユウは部屋に置いてあった机に座って、両手を合わせた。
「いただきます」
スプーンで粥を掬うと、鶏の骨から取った出汁の香りが鼻腔を刺激した。誘惑に堪えきれずユウが粥を口に運んで、「ん〜〜」と唸る。
鶏肉は食べやすく解され、鶏だしをベースにした出汁とさらりとした米によく合う。少しだけ入った醤油の風味が優しい味に深みを足していて、塩加減も絶妙だ。
無心になって食べるユウの横顔を見ながら、アイリは微笑んでいた。
やがて皿の中身が空になって、スプーンを置いたユウは再び両手を合わせた。
「ごちそうさま。すっごく美味しかった!」
「どういたしましてぇ」
元気に言ったユウに、アイリはにっこりと笑った。その愛らしい表情に、ユウは思わず見とれてしまって――次いで、表情を曇らせた。
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作者名:ゼファー | 作成日時:2021年1月14日 13時