【オリジナル/BL】悪魔の翼 (ページ1)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:10,049 hit

プロローグ part1 ページ1

.

『君は星みたいだなあ。――いや、違うな。ボクにとっての、星であってほしい』

　冷たい月光を背にして、その人はよく分からない言葉を口にする。
　声が発されている訳じゃない。ただ、言っていることは理解できるような、そんな、感覚。
　自分はそれを、床に座り込んだまま、ただ聞いていた。

『なんですか、それ』

　聞き返した自分の声もまた、同様だ。
　透明にしか思えない会話。
　しかし確かに成立している対話。
　さえざえとした月明かりの中で、彼女が微笑んでいるのが分かった。

『私はねえ、美しいものが苦手なんだ。だけどいないと凄く嫌で。君のいない世界なんて考えれないよ』
『何ですか、あなたは』

　誰なんだ。
　銀色に煌めく月と青い星、同じ色の髪、同じ色の瞳。光を反射してそれを隠そうとする片眼鏡(モノクル)。一挙手一投足が金属のように滑らかな、美しきそのシルエット。
　わたしはその姿を知っている。光を跳ね返すガラスの煌めきも、音が抜け落ちてしまっている言葉も、誰のものか知っている、筈だ。だけど分からない、あなたは誰だ！
　怪訝そうなわたしの顔をじっと眺めてから、その人物は表情をすっと消した。まるで人形のようなその貌に、わたしは目を奪われた。
　こちらにまっすぐと歩いてくる長身痩躯の姿。やはりその動作も金属のように美しく、強く抱きしめられたことの認識が遅れる。

『なにを……？』

　その言葉への反応は、ない。
　かわりに苦しいほどに抱きしめられて、肺にあった空気すらも押し出される。
　知っている。
　知っているはずなのだ。
　適度に肉のついた柔らかいこの腕も、優しいカモミールの香りも。だけれどもやっぱり分からない。