この人が欲しい

風邪 ページ21

今日の仕事が、急遽オフになったから、彼女に連絡した。


『お休みになったから、会いたいなぁ〜。
椿さんも今日は休みだよね？』

「むり」


たった２文字の短い返事に、とてつもない違和感を覚えてすぐに電話をした。

返信は早かったのに、何度コールしても電話に出ない。

そして、またすぐに彼女からの返信。


「むり」


やっぱり２文字。しかも平仮名。気になる。
もう一度電話すると、ようやく彼女が電話に出た。


『椿さん？』

「むりなの。」


明らかに声がおかしい。
しかも、かなりツラそう。


『具合悪いの？』

「たぶん風邪。」

『今から行くよ。』

「来なくていい。」

『なんで？』

「うつしちゃうといけないから。」

『でも、寂しくない？』

「平気。」

『ご飯は？食べた？』

「食欲ない。」

『ダメだよ。食べなきゃ。やっぱり行く。』

「食べるから。来なくていい。」

『うるせぇ。』


それだけ言って電話を切った。

車で彼女の家に向かう途中、コンビニで買い出し。
風邪の時って何がいいのかな？定番はおかゆ？
あ！ウィダーとかも買って、後はビタミン系？
柑橘系のゼリーとか、ヨーグルトかな？
俺は風邪引くとパイン食べたくなるから、カットパインも買おう。
それから、ポカリ。

色々買いこんで、彼女の家に向かう。
インターホンを鳴らすけど、全然出てくる気配なし。

寝てんのかな？なんで合鍵もらっとかなかったんだろ。
寝てるのに、起こすのも悪いかな？
そもそも、具合悪いのに起きて玄関まで来るのも大変かな？

もう１回だけ！ようやく少しだけ人の気配を感じた。
ゆっくり扉が開くと、おでこに冷却シートを貼った彼女が、真っ赤な顔で出迎えてくれた。


「来なくていいのに。」

『ごめん。心配だったから、それより大丈夫？』

「だいじょぶ。」


そう言った割にはふらふらで、見てられなくて彼女をお姫様抱っこで寝室に運ぶ。


「歩ける。」

『うるせぇ。』


彼女をベッドに寝かせて、すっかり効力を無くしてしまった、おでこの冷却シートを貼りかえてあげると、嬉しそうな顔で気持ちいい。と呟く彼女。

これは、俺の事わかってないな。

全然大丈夫じゃねぇし。

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