褪せない今日より見えない明日で【高尾和成】2

Good Old Days 038 ページ4

「1秒でも遅れたら轢かれるよ？ パイナポー投げつけられるよ？ ねえ、私のために争わないで……」


　気分は悲劇のヒロイン。そもそも、私を抱えるより普通に走った方が速いじゃん｡


　私がそう言うと、真太郎が「ぐだぐだ言うなA。見苦しいのだよ」


　両手を組んで内側に一回転させて、出来た穴を覗く和成を見て、私はもう2人を止めるのは無理だと悟った。アレは、和成がジャンケンの前にしているルーティーンだ｡


　諦めた私は、「フッ……この私を抱くことになるのはどっちかしらね……？」なんてイイオンナごっこをして彼らの勝負を見守る｡


　和成が私の方を向いて、「オレ、この戦いに勝ったら、Aと結婚するんだ」と言った。死亡フラグ建築士｡


「さーいしょーはグー……じゃんけん、ポンッッ！」


　和成の手はパーで、真太郎はグーを出していた｡


「えっ、真太郎が負けたあ？」


　予想だにしない結果に思わず素っ頓狂な声が出る｡でも、仕方ない、だって戦いに勝った和成も、真太郎でさえ目をキョトンとさせているんだから。多分全米が驚いてる。


　しばらくは目をパチパチさせていた和成だが、3秒ほど経ってから「うわぁぁぁぁああい！ 真ちゃんに勝った、勝った」と跳んで喜んでいた｡


　真太郎は自分の出した握りこぶしをじっと見つめては小首をかしげる。……いや、その仕草可愛いな｡


「ってなワケで、真ちゃんA担いでってー！」


　初勝利を手にしたことが余程嬉しかったらしく、まだ目をキラキラさせている和成が催促する｡


「何故オレがこんなこと……」


　ブツクサと文句を溢しながらも、彼はさっと私を抱え上げた。因みに、お姫様抱っことかではない。ロマンがないねえ｡


　いくら私がスレンダーでスリムで体重軽いという事実を踏まえたとしても、人1人を抱っこしながらこんなに速く進める真太郎に感動する｡


　大きくなりやがって……☆と、昔なじみの近所のおばちゃんのような気分に浸っていれば、すぐに学校に到着する｡


　

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