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金曜の夜、退勤ラッシュの人波に紛れながら駅へ向かう道すがら、私はずっとモヤモヤしていた。
あの日のことが頭から離れない。あの後、ハニは一度も家に来ていない。まあ、いつものことだ。あいつは気まぐれだし、私の家を本拠地にしてるわけじゃない。でも今回は———。
『結局、私はどうしたいんだろう。』
歩きながら、ため息をつく。
追い出すなら、とっくに鍵を替えればよかった。やろうと思えばいくらでもできるはず。それでもやらないのは...放っておけないから。あいつ、ほっとくと本当にダメになりそうで、結局いつも手を出してしまう。
いや、正直に言うと、それだけじゃない。
……なんだかんだ言って、あいつといるのが嫌いじゃないんだ。馬鹿みたいなやり取りも、くだらない冗談も、意外と悪くない。私の生活の、空いた隙間を埋めるには丁度いい存在だった。
ただ、これが良い関係かって言われると、全然違う。それは分かってる。だからと言って、このまま流され続けるわけにもいかない気がする。
『あいつだって、話せば分かるよね…たぶん。』
足元の小石を蹴るみたいに、心の中のモヤモヤを払いのけようとする。でも、それが消える気配はない。
結局、あいつが何を考えてるのかも、私が本当にどうしたいのかも、まだ答えが出ない。
ただ一つだけ決めたのは、次に会ったらちゃんと話そう、ということ。それがいつになるのかは分からないけど———いや、土曜の昼には、どうせあいつは家に来るだろう。
土曜。そう、明日だ。

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作者名:黒猫アイランド | 作成日時:2025年1月15日 12時