繋がる糸は緋色に染まる (ページ28)

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カウンターの端に座る彼は、グラスを手にしたままじっと中の氷を眺めていた。薄暗い照明が、彼の横顔に深い影を落とす。指先でグラスを回しながら、眉間には小さなしわ。珍しく、黙り込んでいる。

「何かあったんですか。」
俺は手早くグラスを磨きながら声をかけた。仕事の一環だ。深入りする気なんてない。

「……別に。」
低い声で返されたけど、その調子からして機嫌が悪いのは明らかだった。

この人がここに来る時は、だいたい決まっている。しかも、今回は心当たりがある。

「A、ですよね」
名前を出してみると、ピクッと肩がわずかに動いた。やっぱりか。

「……なんで今あいつの名前出すんだよ。」
彼がこちらを睨むように視線を向けてくる。

「大体想像つきますから。」

悪態をつく彼を横目に、俺は淡々と仕事を続ける。はぁ、と心の中でため息をついた。この二人がどうなろうと正直どうでもいい。俺が何かする義理なんてない。

……なのに、なぜかこうして手を貸してしまうのは、彼の心情が透けて見えるからだろう。

「知ってますか、A、告白されたらしいですよ。」

その言葉が届くや否や、彼の眉がピクリと動き、目つきがさらに鋭くなった。

「…あいつ、そんなこと俺に言わなかったけど。」
低く漏れた声には、苛立ちとほんの少しの動揺が混じっていた。

「誰に。......アイツか、ミンギュとか言う奴？」
彼はそう言い、一瞬こちらを睨みつけた。それでも返事を待つように視線を向けてくる。

俺は特に肯定も否定もせず、ただグラスを磨き続ける。だが、その反応だけで十分だったらしい。

彼は小さく舌打ちをし、グラスを握る手に力が入る。

「…はぁ？なんだそれ。」

その声には苛立ち以上に、どこか焦りのようなものが感じられた。

「いいんですか？」
俺はふと視線を彼に向けて、さらっと言葉を続けた。
「そんなんだと、持ってかれるかもしれませんよ。」

その一言に、彼の表情が一瞬固まるのがわかった。きつく握られたグラスを置き、彼は無言で立ち上がる。

「……持ってかれるわけねぇだろ。」
低く吐き捨てるように呟くと、そのまま振り返らずに店を出ていった。

俺はグラスを磨きながら、開いた扉が静かに閉まる音を聞いた。

———本当に手の掛かる人だ。