繋がる糸は緋色に染まる (ページ26)

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夕方、リビングのソファでいつものようにぼんやりとテレビを見ていた。画面の中では派手なCMが流れているが、内容は頭に入ってこない。目だけが画面を追っていた。

ふと、玄関の方からガチャリと鍵の開く音がした。Aが帰ってきたのだとすぐにわかった。いつものリズム、慣れた足音がリビングへ近づいてくる。

ちらりと視線を向けると、Aがコートを脱ぎながら小さくため息をついている。

最近、妙に目につく。Aがやたら外に出かけていることも、いつもより楽しそうに見える仕草も。特に、会社の後輩だというあの男、ミンギュとか言う奴と一緒にいる時の様子を思い出すたび、胸の奥がチクリとした感覚がする。

自分でも理由がわからない。ただ、どこか落ち着かない。

『あんたほんと家でくつろぎすぎ。少しは外に出たら？』
コートをソファに放りながら、Aが軽く嫌味っぽく言う。

「外出ならしてるけどな。お前みたいに男とショッピングとかはしてねぇけど。」
自分でも驚くほど冷たい声が出た。Aの手が一瞬止まる。

『…は？なんで知ってんの？』
振り返ったAの表情は明らかに驚いている。それを見て、俺は何をやっているんだと思った。でも、引き返すことはできなかった。

「たまたま見かけたんだよ。」
テレビに視線を戻して、何でもないように言う。

Aはしばらく黙っていたが、やがて少しだけ眉をひそめながら言った。
『別にいいでしょ？後輩と買い物くらい。』

「へぇ。」
短く返した声には、自分でもわかるくらい棘が混ざっていた。

『何その言い方。感じ悪い。』

「はっ、ただ感心しただけだよ。お前もちゃんと男にモテるんだなって。」
軽く笑ってみせるけど、胸の中にはずっとモヤモヤした塊が残っていた。

Aはしばらく俺を見つめたあと、少し疲れたように肩を落とした。
『……そういうんじゃないから。』
ため息混じりにそう言い捨てて、彼女はリビングを出て行った。

一人残された部屋で、テレビの音だけがやけに響いている。Aが出て行ったドアの方を見つめながら、俺は静かに吐き出すように呟いた。

「…くだらねぇ。」

胸の中に渦巻いているこの感覚が何なのか、俺にはまだわからなかった。ただ、あの後輩と楽しそうにしているAの姿を思い出すたびに、無性にイライラしてしまう。それが気に食わなくて、自分自身に苛立つ。

テレビの画面に映る鮮やかな光景をぼんやりと眺めながら、俺は深く息をついた。