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「なぁ、聞いてる?」
その言葉で、ぼんやりしていた頭が現実に戻る。
ジョンハンが箸を止め、真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「A、最近、心ここにあらずって感じだな」
つい、気を抜いてしまった。
『…そんなことないよ』
言い訳をしてみても、ジョンハンはいつものように笑わず、少し困ったような表情を浮かべた。
「嘘つけ、おまえの癖分かってんだよ。目が合わないときは何か考えてる時だな」
思わず、顔を上げると、ジョンハンはそのまま無言で私を見つめている。
まるで、私の気持ちを全部見透かしているような
「…覚えてるか?2年の時、」
『わっ、みそ汁熱っ!』
急いでお椀を持ち上げ、話題を逸らす。
焦った私の顔を、ジョンハンがじっと見ていたけど、何も言わなかった。
でも、どうしてもそのときのことが浮かんでしまう。
大学2年生の時、
サークルでカッコイイと人気の先輩に言い寄られた。
顔もど真ん中のタイプだったし、熱心なアプローチに負けて付き合うことにした。
あの頃の私は、疑うこともなく彼の言葉を信じ、浮かれていたのだと思う。
でも、そんな幸せな時間は長く続かなかった。
彼にはすでに彼女がいて、私なんてただの遊び相手に過ぎなかった。
それ以来、人と深く関わることを避けるようになった。
思えば、あの時もジョンハンは何も言わず、ただ隣にいてくれた。
気づけば、私はいつも彼に助けられてばかりだった気がする。
ジョンハンが、ふっと小さく息を吐いてから、言った。
「ああいう奴とは、もう関わるなよ」
「…ジョンハン?」
普段より低い声のトーンに、戸惑う。
「あの...ホン・ジス?だっけ、そいつなんかやめて...」
歯切れの悪い言葉と、どこかぎこちない視線に胸の奥がざわつく。
でも、ジョンハンはそれ以上言葉を続けなかった。
ただ短く視線を逸らし、箸を置く音だけが静かに響いた。

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作者名:黒猫アイランド | 作成日時:2025年1月11日 19時