follow my hand (ページ9)

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拒否することも、出来る訳もない私が、わかりました、の一言を返してからまた３０分。

『どこ、行くんですか？』

何度かそう尋ねてみたものの。

「な～いしょ！その方が絶対楽しいから、ま、ついて来なって」

またしても、回答もヒントすらも与えられないまま、伊沢さんについて行かざるを得ない状況に陥っていた。

連れて行かれたのは普段は降りることのないとある駅。

「あ、こっちだから」

伊沢さんの指示で電車を降り、改札に向かう階段に差し掛かる。

「ここの階段、結構急勾配だから気ぃつけてな」

そう言って、手を差し伸べられた。

予想外の紳士さに面食らってしまったものの、伊沢さんと手を繋ぐということ自体が恐れ多くて、やんわりとそれを制する。

「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」

せっかくの親切を無下にするのも申し訳なかったのだが、そっとその手をすり抜けて降りようとすると。

「いや、ほんとここ危ないから。遠慮しないで繋いどけって」

伊沢さん側にあった左手を、不意に掴まれた。

暖かさが手のひらに伝わった途端、心臓が止まるかと思うくらいの衝撃が身体に走る。

『ほ、ほんとに大丈夫ですから、あの、伊沢さん…！』

慌てて手を引こうとすると、少し強めの力であっけなくその行動を制された。

「こう言う小競り合いする方が危ねぇから」

伊沢さんの、いつになく真剣な目に射抜かれてハッとする。

紳士的な振る舞いに慣れず、勝手に意識しているのは私の方で。

自らの醜態がいたたまれなくなって、その場で消えたくなった。

『すみません…』

「わかればよろしい」

ニッカリ笑って返され、そのままそっと手を引かれて階段を降りる事になった。

まるでエスコートするように、ゆっくりと階段を下ってくれる横顔に否応無く胸が高鳴る。

今日の自分に訪れている非現実的な出来事は、夢でしたと言われても納得がいく程ふわふわとした感覚の境地にいる。

自分の人生の中で、こんなに階段が意味を持った事がないくらい、その存在に感謝してしまった。

そして到着する改札前。

階段は下り終えたものの、ずっと繋がれている左手が落ち着かず堪り兼ねて口を開く。

「あの、もう、大丈夫です」

すると。

「いーや、まだ危ないから、あとちょっとな」

天才の思考とは、かくも解せぬものなのか。

私の頭の中は、またもやクエスチョンマークで埋め尽くされるのだった。

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