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『Aが、好きだ。もしAが良かったら、俺と付き合ってくれん?』
繋いだままの手のひらから、どちらのものとも分からない鼓動を感じる。
Aの顔が、みるみるうちに赤くなったかと思えば、俺を見つめる目が微かに揺れて、涙の膜が、それを覆っていく。
『え…なんで…そんな。ほんと、ですか…?ほんとに、私、なんかで…いいん、ですか?』
片手で顔を抑えながら、溢れる涙と言葉を止められずにいるAを、綺麗だと思った。
「Aやからいいんよ。Aやから、ここ入んのも見つけたし、ええカッコしたかったし、手も繋いだって言ったら、信じてくれる?」
相変わらず俯いたまま、耳まで真っ赤にしたAに、期待が膨らんでしまうのを止められない。
「なぁ、A。返事、もらえる?」
『わ、私も…須貝さんが、好き、です…』
その言葉を聞いた安堵感で、思わず、繋いでいた手のひらを引き寄せて、Aの身体を抱きしめてしまった。
「あー…良かった。ほんまに、こんなロマンチックの欠片もないようなとこで言うつもり無かったんやけど、言って良かったわ」
どれぐらいそうしていたかわからないような数分間だったと思う。
いつまでもこうしているわけにもいかず、そっと身体を離してAと向き合った。
「ごめん、そんな顔で外出れんな」
『須貝さんのせいじゃないです』
涙のあとが残る目をそっと指で撫でる。
くすぐったそうに目を瞑るAを、また抱きしめたいと思うのは、ワガママだろうか。
「トイレで顔ちょっと冷やしといで。俺、問題持っていっとくわ。高松に渡したらええ?」
『はい。じゃあ、お願いします』
お化け屋敷から出たとは到底思えない清々しさで目を細め、じゃあ、あとでとお互い照れながら手を振って別れた。
それにしても、なんて濃ゆい企画と淡い恋心だったのかしらと、半ば信じられない思いでお化け屋敷全体を仰ぎ見て、謎の達成感にニヤける顔が抑えられなかった。
そんな俺を、さらにニヤついた目で見つめるCEOがいたことに気付くのは、あと3秒後の世界。
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作者名:SEN | 作成日時:2021年10月16日 0時