『follow my hand』ini ページ11
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京の七夕PR撮影のため訪れた京都。
昨年の伊沢・須貝ペアと同じように、今年度選抜されたこうちゃん・乾ペアも浴衣に着替え、鴨川の地に降り立った。
『乾、浴衣似合うね』
「そうかな、ありがと。あんま着たことないから慣れないんだけど、こういうとこで着るとやっぱ風情あっていいよね」
機材や道具を準備する合間に隣り合って、不意に話しかけると乾が嬉しそうに笑う。
白い肌に紺の浴衣、白帯と明るい毛色がアクセントになって、先ほどから通行人の目すらも引いているその立ち姿に、マスクで顔は隠れていても、かっこいいなと思わずにはいられなかった。
「ちょっとちょっとぉ、俺は?俺だって普段と違っていい感じでしょうが!」
そんな思考を遮るように、突如渡辺さんの声が割って入ってくる。
『もちろん、渡辺さんもカッコいいですよ』
「だーから渡辺さんじゃなくて、呼び方こうちゃんでいいっていつも言ってるじゃん。乾は乾なのにさぁ。ズルくない?」
『乾とは同期ですし、専攻も同じなので自然とこうなっちゃっただけで…』
弁明するものの、また訝しげに見られる視線に耐えられず、意味もなく撮影道具の入ったカバンを抱えなおしてみた。
乾と出会ったのは大学のとある講義の休み時間。
たまたま、友達に頼まれた結婚式の動画編集をしていたら、不意に後ろの席から話しかけられたのが始まり。
聞けば彼もある会社で動画編集をしていて、人手不足のためバイトを探しているとのことだった。
独学ではあるけれど、元からデザインや動画編集には興味があってよく頼まれていたので、二つ返事で引き受けることになった。
それが今では、編集の仕事もさることながら、彼は出演者として、私は補助で撮影に同行するほど、大学と並行しての天職になりつつある。
意識したりしなかったりは人に話すほどではないのだけれど、一応、気にはなっている、かもしれないくらいで…。
「おーい!そろそろ移動するぞー!」
微妙な空気感に耐えられずそわそわしていると、司会進行の高松さんからタイミングよく声をかけられ、そのまま移動を始めることになった。
出町柳駅からほど近い鴨川デルタという三角州が、オープニングの撮影場所。
道路側から川縁に移動すると、平日であっても人で賑わっているのが伺えるほど人気スポットのようだ。
河岸から三角州に向かって伸びる飛び石に向かうと。
「それ、持つよ」
手に持っていた撮影道具を乾に取られてしまった。
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作者名:SEN | 作成日時:2021年10月16日 0時