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case2
「あー楽しかった!」
「ふふ、それはなにより」
付き合いはじめてから何度目かのデート。場所はお馴染みの夢の国だった。
テレビの仕事を頂いてお互いに立て込んでいたのもありこうちゃんと出掛けるのは久しぶりで、少なからず僕も浮かれていた。
,,,今日は初めて、恋人つなぎもできたし。ま、ハグはまだ先かな。
「今日で終わっちゃうなんて信じられないですよー,,,ね、山本さん、伊沢さんに頼んで休み延ばしてもらいません?」
「さすがに2日休んだからね、働かなきゃ」
「真面目すぎですってもぉー」
ぴかりと青に光った信号。僕らはじめ、夢の狭間でふわふわしている人たちが歩きだす。
ふわふわとした夢は、やがて悪夢に変わった。
危ない、という彼の声が聞こえたときはもう手遅れで。瞬間耳障りなブレーキ音と共に僕の体は彼によって一気に反対側の歩道まで投げられる。
パキパキ、ぐち。
その音は目の前でしたのに、なぜか遥か遠くに感じられる。
「っこうちゃん!!!」
体が跳ねる。轢かれた人はざっと10人。できる限り早く彼のそばに駆け寄って脈をとるも、どんどん彼が消えていく現実だけが迫ってきた。
「こうちゃん!!!聞こえる?僕だよ、ねぇ,,,こうちゃん」
彼の腕が少し動いて、やがて頬に一筋の涙が流れる。
「っち、きて、くぁさぃ」
わずかにこうちゃんが喋った。こっち、きて、下さい?
咄嗟に僕は倒れているこうちゃんに寄り添う。彼はゆっくりと腕をあげると、僕の頬に添えた。閉じられていた目が薄く開く。
「よかった,,,やまもとさんは、無事、みたいですね」
「僕?助かったよ、無事だよ、こうちゃんのお陰で,,,でも、でもっ、僕はこうちゃんともっと一緒にいたかったのにっ!」
いいながら僕も涙が溢れてきた。ふは、とこうちゃんが笑う。
「ごめんなさい、やまもとさん,,,」
消え入るような声で呟き、刹那彼の腕は力を失って地面に垂れた。
「こうちゃん?っこうちゃん!こうちゃん!!!」
思わず彼を起こして、強く抱きしめる。下腹部と足を轢かれたからきっと痛かっただろうに、彼はもう何も言わなかった。
代わりに僕の白いパーカーがじわじわと彼の色に染まってゆく。強く抱けば抱くほどに、その色は濃さを増す。
初めてのハグが、こんなに悲しいだなんて。
こうちゃんの血溜まりに僕の涙が溶けて、じわじわと広がっていった。
ーーーymmt×k-chan
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颯楓(プロフ) - 笹さん» わああありがとうございます!!!嬉しすぎて溶けそうです笑ちまちま更新ですがよろしくお願いします! (2020年8月18日 6時) (レス) id: 0a39adce2c (このIDを非表示/違反報告)
笹 - 初めてコメントを書かせていただきます! タイトルの付け方から本文までインテリジェンスが溢れてますね(( ymmtさんとko-chanのヤンデレが特に好きです! これからもぜひ作品を読ませてください!長文失礼致しました。 (2020年8月17日 22時) (レス) id: a74edc1ff9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:颯楓 | 作成日時:2020年8月9日 14時