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そんな私にも日課があった。というのも恥ずかしくて人前では自慢できるような代物じゃないけれども。

今日思い浮かんだ文節をとある一冊のノートの中に自分の思いを更に膨らませて文章を綴り詩集のようにすること。所謂自意識過剰ポエム。

とても楽しいけれどもあまり胸を張って言えない。人には見せたくない。馬鹿にされて私が痛い目を見る。

けれども季節の香りに思いを乗せてつらつらと手元が動く瞬間にペンが用紙に擦れて音が重なる。その感覚も好きでやめたいなんて選択肢はなかった。


(春、かぁ)


どの季節も魅力的。春は訪れで夏は青春。秋は切なく、冬は静けさ。これは私の中での表現の一つであって他の言葉で例えるとなると多くなって時間を多様に必要としてしまう。

それくらい季節の流れや変わり目は魅力的なのだ。

もうここまで来れば自然と私の夢は小説家という道に憧れていた。

今日も今日とて誰も利用しない物静かな図書室を放課後利用しては一人で時間の中へと深く浸っていく。



「…その本、島崎藤村の」


いつの間にか息抜きをしようと本を読んでいると一人の白銀の雪景色のような髪にストロベリーのような瞳を夕焼けの陽に反射させた男の子が私の真正面の席に座っていた。

私はそのタイトルを見られたかもと慌てて勢いで隠そうとすると偶然近くにあったペンケースに当たってしまい入っていた文房具が宙を舞って散らばってしまった。

もう、本当に今日はツイテない。他人と話すなんて久々すぎてどう対応したらいいのか…


「ご、ごめんなさい。つい気になって」


男の子は申し訳なさそうにしゃがみこんで私のシャーペンや消しゴムを拾ってくれた。私も拾おうとしたけれどもその男の子の容姿があまりにも本の中の人物のように綺麗だったものだからその様子を黙って見ていた。

キメ細かい肌だったり細長い指先だったり、普通の男の子より少し高めのソプラノの声だったり。


「詩集、お好きなんですか?」

「そ、そうですけど」


突然話しかけられたため焦ってしまい上ずった声で返すと彼は柔らかく純潔な微笑みで私のペンケースと落ちていた本を私の手元の中へと返してくれた。



「僕も好きなんですよ。特に“初恋”が」



・→←透明な季節【まふまふ】



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作者名:夜紅茶 | 作成日時:2020年6月9日 16時

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