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「あの子は可愛そうだと思って僕が声をかけただけ。」
「…なに、それ。」
(続けろ、コロせ。感情も自我なんかもう置いていけ。)
笑顔を崩さず、けれど人を信じず僕は“俺”を殺して平気で言ってしまえばいい。変な情は持つんじゃない。
(最低になってしまえ。)
「たまたまパーティに来た時は使用人っていう職業で所詮庶民と同じじゃん?流石に慣れてない場所で可哀想かなぁって思ったから僕が声をかけた、それだけだよ。」
「…じゃあ、彼女のことはなんとも思ってもないってこと?」
……ふふっ、何言ってるのまふくん。
「心の片隅にも止まってないよ。」
…言い切った。そう、これでいい。
目の前のまふくんを見れば怒りに満ちた目をしている。彼は息を吸って言葉で僕に叱責をしようとしていた。…あぁ、言われるのかな怒りの言葉をぶつけられるのかな。
「えっ…」
すると突如聞こえてきたのは耳を割くような食器が崩れ落ちる音、そして零れた彼女の声。ハッとして客間の扉を見ると黒漆のようにハッキリとした瞳がそこにはあった。
彼女は先程の話を聞いていたのか彼女の下には粉々になった食器。大きく目を見張ったあと一瞬苦い表情を浮かべた気がした。
「…Aちゃん。」
「…あ、ははっ……すみません。ティーセットを落としてしまいまして…………執事さん、呼んできますね。」
「Aちゃん!!」
辛そうな笑顔を浮かべたあと彼女は顔を歪めて涙を瞳から零しその場を走り去ってしまった。まふくんは彼女の名前を大きく叫んで追って行こうと扉を勢いよく開けた。
しかしまふくんは何故かピタリと止まり、僕の方へと振り向いた。
「さっきの言葉、嘘なんでしょ。」
「…まさか、そんなことはないよ。」
「天月くんが否定するのは自由だけど…そうやって真意を決めつけるのならまず自分の顔見てからの方がいいよ。」
そう言葉を残して彼は少ないはずの体力で彼女のことを追って走っていってしまった。
窓ガラスを覗くと自分の瞳が揺らいで今にも涙が溢れそうで、酷く歪んだ顔を映していた。自慢のポーカーフェイスはどこに行ったんだろうか。
「…上手く笑えないんだけど。」
僕はその場に呆然と立ち尽くし何故か鈍器で殴られたかのように頭が痛く、氷のようにひやりとした寒気が背中を伝って行った。
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ヨル(プロフ) - コメントありがとうございます!何とかひねりにひねって作品を良いものにしていきたいと思いますのでよろしくお願いします (2020年1月16日 20時) (レス) id: 676346443e (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - この作品好きです!続き楽しみに待ってます! (2020年1月16日 20時) (レス) id: 1b1d47c664 (このIDを非表示/違反報告)
パピヨンlove - ヨルさん» いやいや全然!バイト〜〜〜頑張れ!!!!!(元気玉)いつでも待ってるよ(イケウ``ォ) (2019年8月21日 1時) (レス) id: 96ecbd33f4 (このIDを非表示/違反報告)
ヨル(プロフ) - パピヨンちゃんおひさ!ありがとねー!!今、バイトとかの予定で中々更新頻度が下がってしまってね…気長に待ってて! (2019年8月11日 19時) (レス) id: 676346443e (このIDを非表示/違反報告)
パピヨンlove - ヨルさん久しぶり!!!!作品面白いね。読んでて楽しいよ!!更新頑張って! (2019年8月11日 13時) (レス) id: 96ecbd33f4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夜紅茶 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/qZN5vxyJ6V2/
作成日時:2019年6月28日 15時