ピーチメルバ JN (ページ4)

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「…わお、よく立てるねソラ」

ソラに掴まって立ってみたら、ヒュッと喉を冷たい風が擦って、冷や汗が出てきた。
もしかしたらヘルメット必要だったかもしれない…当たり前だけど小5のときより身長は何10センチも伸びていて、自分の体幹の無さに呆れる…。

ふらふらとへっぴり腰の私は壁や手すり、掴まれるものには全て頼ってリンクの中に入る。

「うわ〜久しぶり！意外と滑れてるな…」
「そ、ソラさん…ちょっと、手を…」

やばい。思ったより出来ないかも。
心臓バクバク、冷や汗ダラダラだったんだけど、少しずつ慣れてきてなんとか掴まるものがなくても氷の上で立っていられるようになった。

しばらくして、今までずっと私に付き添ってくれてたソラがひとりで滑ってきてもいいかと聞いてきたので、首を縦に振ると颯爽と消えていく彼女の背中を見つめて、すごいなぁなんて呑気に思った。

せっかくスケートをする機会が与えられたのだから、少しでも上達して帰りたい。

そう思って、そろそろと10センチにも満たないくらい細かく細かく足を前後に動かして前に進もうとする。…けどこれがなかなか進まない。

もはや行進するみたいに一歩一歩しっかりと床を踏んだ方がいいんじゃないか…なんてスケートの本質を見失う程、センスのない自分に絶望した…。

いいんだ、私は私のスピードでやっていこう。周りは見ないことにする。私よりもひとまわり以上年下だろう男の子たちがスイスイ滑ってる世界なんだから。

うんうんと頷きながら、一旦立ち止まってロングコートのポケットに入れていた手袋を取り出す。ミトン型で手の甲の側にかわいいうさぎの顔がついていて、すごく子供っぽくて実用的じゃなさそうなんだけど、いつだかソラが私に似合うって言ってくれたから買ったやつ。

お気に入りで、転んだりして濡れて汚したくなかったから付けてなかったんだけど、ちょっと慣れてきたからつけることにする。やっぱり手袋なしだと寒いしね。

で、やっぱ、慣れって怖いんだ。

私はその瞬間、バランスを崩してすっ転んだ。

「いぃ、いたい…」

あまりにも一瞬の出来事で起こったことに理解が追いつかなくて、ただただジンジンとするお尻の痛みとそこからじわりと滲む氷の冷たさを感じていた。

あぁ、立たなきゃ、しばらくして状況を理解するんだけど、どうしよう、立ち方がわかんない。転んだ場所は壁からも離れてて支えになるものがない。