ピーチメルバ JN (ページ1)

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時刻は16時。日が落ちようとしている。
無防備な顔に触れた12月の空気は鋭く突き刺さる。

お気に入りのマフラーからちょっとだけ顔を出しては〜っと息を吐いたら、白い息が広がって世界をほんの一瞬曇らせた。それが消えると見えるのは、煌びやかに輝くクリスマスツリー。

12月23日。
あと2日でクリスマスになろうとしていた。

韓国の大学に語学留学に来ている私は、その寮のルームメイトであるソラと、賑わうソウルを歩いている。たまの休みも図書館で勉強したり部屋に引きこもってたりするだけだったから、久しぶりの開放的な時間にいつまでもウキウキがおさまらない。

今日ばっかりは冬休みに出された課題のことなんか忘れて、いつまでもこの、クリスマス前の雰囲気に浸っていたいななんて思った。

今年の冬はソラとふたりで部屋でゆっくりしようねって約束してたんだけど、実はまだどんなケーキ買うかとか決まってない。今せっかく中心の方に出てるんだから、どうせなら良さそうなケーキ屋さんで予約とかしておきたいな。

「ねえねえソラ、ケーキのことだけどさ、」
「あ！そうそう！これ見て」

そう言ってスマホを操作して、私に見せてくる。

「これかわいくない？お店もこの近くなの！」
「かわいい！…でも、ちょっと高そうじゃない？」
「うーーん、まあちょっとね…」

ソラが見せてくれたのはSNSで流行ってるというケーキで、とても手が込んでいて繊細な美しい見た目からか2人分の大きさなのにすごく高そうだった。でも、みんながこれに惹かれるのすごくわかる…赤い苺が宝石みたいで、飴細工も氷の彫刻みたいに綺麗…。でも…

「私、そこのドーナツ屋さんのクリスマス限定の雪だるまのドーナツとかで全然いいよ？」
「ううん、心配しないで、私Aとこのケーキ食べる為にバイト頑張ったんだから」

ソラはカフェでバイトしているけど、私はしてない。お金が全くないことではないんだけど、なんというかケーキにこの値段ならもっと他に…って思っちゃう貧乏思考。