金魚鉢。 (ページ39)

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そう言って、私が泣き止むまで
頭をポンポンと撫で続けてくれた裕くん。

「...ごめん、ね。」
『謝ることちゃう。俺がしたくてしてんねんから。』

そうしてひとしきり泣き終えると、

『まぁ、あれやな。何かの縁やろし、これからちょくちょく顔見に来るから。』
「え、いや…忙しいでしょ？そろそろツアー時期だろうし。」
『ほやから俺がしたくてすんねんから、えぇやろ？な？』

そう言って帰って行った裕くん。

私も泣き腫らした目を擦りながら、
片付けの続きを終えて寝室へ行けば
スヤスヤと幸せな夢でも見てるのか、
可愛い寝顔をしているユラが居て…

ママ、頑張るからね？と頭を撫でた。

────────…

──…

それからというもの、裕くんは
週に１回位は顔を出しに来ては
他愛もない話をしたり、

わざわざ現場の差入れにするお菓子を
うちのカフェの物にしてくれたり、

「毎回こんなにしてくれなくて良いのに。」

申し訳なくてそう言えば、

『俺にも、こんくらいはさせてや？』

なんて言うから、お言葉に甘えてしまってる。

それからユラが全然寝ない日に、
おんぶしながら片付けしてる時に
顔を合わす機会があった時、

母娘で好みは似るのか否か、
ユラがめちゃくちゃ裕くんにベッタリで。

それがあってからはユラに
服やらオモチャやらもたくさん
買って貰ったり。

『ゆ！ゆ！きた！ゆ！♪』
『ユラ～お前はかわえぇなぁ♪』

なんて、微笑ましい姿を見ながら
過ごす時間が日常となっていた。

そんなある日、いつものように
やって来た裕くん。
他愛もない話をする内に、

『彼氏とか作ったりしないん？』

ふとそんなことを聞かれて。
そんなの考えたこともなかったから
返事に困る私。

『あー、いや、ごめん。こないだ、さ...』

そう言って、裕くんが教えてくれたのは

“ユラのパパなの？”

ユラが裕くんに聞いた言葉だった。

「...そんなこと、言ってたんだ。」

『...うん、さすがに俺もなんて言うたったらえぇか分からんくて、その時は適当に話変えてんけどさ。』

私には、そんなこと1度も聞いてきた
事なかったから驚きと申し訳なさで
切なくなる。

「...パパ、必要なのかな。」

そう思って浮かんでくる顔は
1つしかない。

それでもユラの為を思ったら、
自分の気持ちを押し殺してでも
“父親”って人を作ってあげなきゃ
いけないのかもと思ったりして。

大きな悩みが１つ出来た日だった。