87話 ページ38
岳斗side
斬られた魔隆の身体は黒い粒子となって消えていく。
俺は木下のおっさんの圧倒的過ぎる強さに腰を抜かしてしまい、地面に座り込んでしまった。
俺達ですらダメージを通すことが出来ず、傷一つ付けることが出来なかったあの魔隆を、おっさんはたった1人でほぼその場から動かずに倒した。
それもたったの数秒で。
「ん？ 何腰抜かしてんだ。さっさと立って仲間んとこ行くぞ」
座り込んだ俺におっさんは「ほれ」と手を差し伸べる。
驚きを露わにしながらも、おっさんの手を掴んで立ち上がった。
「でも、少し無茶し過ぎだ。リクトル見えるんだったら力の差ぐらいわかっただろ、この馬鹿」
額にデコピンを入れられ、「いだっ」と言いながら額を抑える。
「軽いデコピンぐらいで大袈裟だなぁ。男なら痛みぐらい我慢しろ、ほら行くぞ！ 」
おっさんは根性を入れるかのように大和に切られた背中をバンと叩く。
さっきのデコピンよりも激痛が走り、苦虫を噛み潰したような顔をして涙を目に浮かばせ、すぐ様おっさんの方を睨みつける。
絶対にこのおっさん……わかっててわざとやってやがる……
「岳斗！！ 」
おっさんの肩を借りながら仲間の方に向かってると、向こう側から月見が心配そうな顔をして駆け寄ってくる。
「お前ら……まだ逃げてなか____」
そこで言葉が途切れると、俺はおっさんから体が離れ、月見は包み込むかのように俺に抱きついた。その勢いで俺の身体に衝撃が走る。
「いっ……！？ 」
突然の事で俺は頭がパニック状態になり、今にも顔から火が出そうになっていた。
月見は何も言わないままギュッと俺の事を強く抱き締め、身体が密着する。
痛みを少し感じながらも俺の赤面ゲージはものすごい勢いで上がっていく。
やばいやばいやばい！ この距離はちょっとまずいんじゃないよか！？ 俺だって男ですけど月見さん！！
ん？ てか……月見の髪って結構良い香りだな……それに服越しだけど、柔らかくて結構胸があったり……
「岳斗」
投げかけられた言葉に驚き、「はいっ！ 」と体をビクつかせながら返事をする。
「岳斗……お願いだから無茶しないで……貴方に死んでほしくないの……！ 」
俺の胸に顔をうずめてるからか、顔は見えなかったが、濡れるような感触と啜り泣いてる声で月見が泣いてるのがわかった。
「月見……」
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