プラチナの王子様 (ページ50)

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「無視するな、それにーー…僕を避けてるだろ」

「私に、話しかけないで」

真緒がドラコの方を見ずに答えると、目の前にバレッタが突き出された。

「ほら、返してやる」

見慣れたバレッタを一瞥してもぎ取ると、真緒はあげたチョコを食べているクラッブとゴイルの間をすり抜けた。

「あ、おい！何で逃げるんだ！返してやったじゃないか！」

ドラコの声に真緒は立ち止まって振り返った。
少し後ろにいるドラコは驚いた顔で、そして傷ついた様子で真緒を見ていた。

「返してやるって何？物を盗って謝りもせずに、偉そうにする人とは話す気になれないわ！」

真緒は声を張り上げてドラコに背を向けると、待ち構えていた小人が目の前にいた。

「真緒・土御門！貴女にメッセージがあります！」
「急いでるの、退いて」

真緒がすり抜けようとするが、小人ががしりと鞄を掴んで離さない。

「〝君はとっても素敵。漆黒の瞳に僕を映してほしいよ。ハッピーバレンタイン〟」

小人がつらつらと読み上げる間に、ドラコが追いついて真緒の腕を掴んだ。

「謝ったら、無視しないのか？」

小人に押し付けられたカードを真緒が鞄に仕舞い込むのを見ながらドラコが言った。

「離してよ」
「離したら逃げるだろーーいい加減っ…」

「いい加減、何？」

「ーーー、何でもない」

腕を掴まれていた力が緩くなり、真緒はドラコに背を向けて走り出した。
(何でもない、って言った時の顔…)

眉に皺を寄せ、俯いたドラコの様子が目に焼き付く。

「真緒？」
「…ジニー？」

女子寮のベッドに突っ伏していたジニーの目は赤い。

「何かあったの？」
「…午後の、授業の前に…カードを配達で渡したんだけど…うまくいかなくて…真緒は？」

ジニーが苦笑しながら尋ねた。

「さっきドラコと喧嘩した、バレッタは取り返したけどね」

ポケットに突っ込んだバレッタを取り出そうと手を入れると、バレッタの他に羊皮紙のかさりという音がした。

紙を開くと一言。

〝ごめん〟

ドラコの字は知らないが、タイミング的に彼で間違いないだろう。
腕を掴まれた時だろうかーーー

「バレンタインカード？」

「ううんーーー…」

羊皮紙を見つめながら真緒が驚いていると、窓のノック音。
梟の姿が見え、窓を開けてやると真緒にぽとりとカードを落とした。

「…何これ」

つい先ほど見た筆跡だ。

「そっちはバレンタインカードみたいね」

fin.12