18 ページ18
夜が来て、ツリーハウスはクリスマスのライトアップのように点々と松明の火を灯した。
モズの言う通り、この小屋の入口には番兵が2人ついている。
不幸中の幸いなのは、それらが無断で踏み入ったり中を覗いてきたりしないことだ。
打製石器を括りつけた簡素な槍を手に、真面目な警備を続けている。
というのも、私を見ていても何も楽しくないからだろう。
なんせ、この小屋に来てからというもの、私は窓の前に座って、ただ空を見上げているだけなのだから。
「邪魔します」
掌の中で転がす墓石は人肌に温められていて、無意識に指先で石肌をなぞっていたら、不意に背後から女の子の声がした。
ゆっくり振り返れば、そこには松明を持った黒髪の少女…キリサメが仁王立ちしている。
「こんばんは」
松明とは別の手に果物を持っているから、食事を運んできてくれた事がわかる。
私が挨拶したことに怪訝そうな顔を見せたキリサメだったけど、すぐに気を取り直して床に直接果物を置いた。
「私はキリサメ。イバラ様からあなたのことを頼まれた。小屋の外に出る時以外は、私があなたを監視する」
「よろしく」
モズに頼んだのに、更にキリサメまで？
よっぽど臆病者か、モズを信用していないのか…
とにもかくにも、お腹は空いていたのでありがたく果物へ手を伸ばす。
こんな原始の世界でも、蛇はいるから毒殺も考えられるけれど、今私を殺すメリットはどこにもないはず。
入口の傍で立ったまま、私が食事をとるのを見つめるキリサメ。
あんまりに視線が痛いから、思わず「なに？」と声をかけてしまった。
「…いや。何故あなたのような娘がここにいるのか不思議に思っただけ」
「…事情も聞かされずにここへ来たの？」
「私は戦士だ。全て頭首様のお言葉に従う。頭首様にお仕えすることが幸せだから」
凛と言い切った彼女は、確かな誇りを持っていることが分かる。
けれど、とても狭い世界だとも思った。
こんな孤島で、それが全てだと教わったのだろう。
まして彼女は後宮ではなく、戦士として頭首に必要とされている。
ある意味特別扱いを受けているから、余計にその忠誠心が強いと感じた。
本当は、彼女が隠し持つ石化武器がなによりの目的ではあるのだけれど…
「キリサメ、考えることの放棄は、人であることの誇りを棄てるのと一緒だよ」
無知は恐ろしい。
人は考えることが出来るけれど、相応の知識がなければ、自分で判断することすら出来なくなる。
知らないことは、不幸なのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 256人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「Dr.STONE」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
sora(プロフ) - 北さん» いるように、きっと強い重力が働いているのではないでしょうか。そういう2人であって欲しいと私は思っています。原作自体一人ひとりの魅力が強い漫画ですので、彼女も同じように恒星になれたら嬉しいです。応援ありがとうございます。北さんもお体ご自愛ください。 (2020年8月30日 15時) (
レス) id: 1d20492120 (このIDを非表示/違反報告)
sora(プロフ) - 北さん» いつも書き込みありがとうございます。彼女も少しずつ成長をしているのかもしれません。記憶がないからこそ自分の二本足でしっかりと立ち、自分のいく末を選択するんだと思います。でも潜在意識というものが人にはあるとも思っていて、生涯のパートナーを直感で選ぶ人が (2020年8月30日 15時) (レス) id: 1d20492120 (このIDを非表示/違反報告)
北(プロフ) - また心から笑い合える日を待っています。これからも応援しています。無理のない程度に頑張って下さい。長文失礼致しました (2020年8月30日 15時) (レス) id: c788d63342 (このIDを非表示/違反報告)
北(プロフ) - もしれません。もし私が彼女の立場であったら、簡単に千空を信じられないでしょうし、自ら行動なんて起こせないでしょう。sora様の描写の素晴らしさもあってか、いつもより強く感じます。素敵です。けれど、やはり記憶が戻って欲しいのもまた事実。千空と愛史ちゃんが (2020年8月30日 15時) (レス) id: c788d63342 (このIDを非表示/違反報告)
北(プロフ) - 完結お疲れ様です。実を言えば記憶のある愛史ちゃんよりも記憶のない愛史ちゃんの方が好きだったりします（勿論どちらも好きですが）惚れたと言いましょうか、、、。自分の記憶がないのにも関わらずいつも通り、いや、それ以上に真っ直ぐで頭の良い彼女に憧れているのか (2020年8月30日 15時) (レス) id: c788d63342 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：sora
| 作成日時：2020年8月2日 17時
