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空二十三日目 ページ23

「ふぅ、楽しかったね」


にごうさんがくるりと振り返って微笑むと、緩くカールした髪がふわりと揺れて、シャンプーの甘い香りが鼻先を掠めた。


……何だか懐かしい匂い。


そんなことをぼんやりと考えていると、どこからかばたばたと足音が近づいてきて、私たちの後ろで止まった。


「……お姉ちゃんっ!!」


そこに立っていたのは、同年代くらいであろう女の子だった。


肩の上で切り揃えた髪を上下に揺らし、肩で息をしている。


それを見たにごうさんは、ぎょっとしたように目を見開いた。


「な、なんでこんなところに……」


そう呟いたにごうさんにずんずんと近づく女の子。


そして。


「っ、帰るよ!!」


と言うと、腕を掴み、片道を引き返そうと踵を返してしまった。


「ちょ、ちょっと!」


思わず引き留めると、彼女は顔だけをこちらに向け、わたしをぎろりと睨んだ。


「あんた、誰?お姉ちゃんを連れ回さないで欲しいんだけど」


空気がぴりりとする。気圧されそうになりつつ、これじゃ駄目だとわたしは唇を引き結んだ。


「あなたこそ誰ですか。その方、嫌がってますけど」


わたしがそう言うと、彼女は余計に目つきを鋭くした。


そしてずかずかと私に近づいて来ると、どんと肩を押す。


「わ……っ」


バランスを崩して尻餅をついた私を見下ろすと、その子は苛立ったように口を開いた。


「こっちの事情も知らないで、口挟んでこないでよ!それで大変なのは誰だと思って……」


ぱんっ、と言う音によって、その声は遮断された。


数秒かかって、やっとにごうさんがその子の頬を叩いたんだと理解する。


驚いたように目を見開いた女の子が、たどたどしく言葉を発する。


「おねえ、ちゃん。何して_」


「……たが何してんのよ。どの口が言って……」


わなわなと体を震わせて、にごうさんが叫んだ。


「わたしを嫌いなのは構わないけど、関係ない子まで巻き込まないで!私たちの問題でしょう!!」


女の子はぎゅっと唇を噛み締めると、身を翻して走って行ってしまった。


「え、あの……」


「ほっといていいよ。あの子、わたしのことがきらいなの」


ため息をつくにごうさんと、小さくなっていく背中。


その景色がぐるぐると頭の中を回って、そして。


「ちょっと!!」


気がつけば、わたしはにごうさんの声を背に女の子の背中を追って走り出していた。

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ねこる。 - えるさん» コメントありがとうございます!わたしの小説で心が透明になるだなんて嬉しい限りです…。もっと色々な表現ができるよう頑張ります! (2021年10月26日 7時) (レス) id: b433a40741 (このIDを非表示/違反報告)
ねこる。 - まめふなさん» ありがとうございます!レス遅れてすみません…。お話素敵って言ってもらえて嬉しいです!頑張ってラストまで書きます! (2021年10月26日 7時) (レス) id: b433a40741 (このIDを非表示/違反報告)
える - なんか単純に綺麗って言葉が出てきました。空の美しい描写、主人公さんたちの感情表現の書き方が綺麗だと思いました。このお話を読んでる間は心が透明になってる感じでした。作者様の書き方尊敬致します。 (2021年10月17日 7時) (レス) @page27 id: cbb903ca6b (このIDを非表示/違反報告)
ねこる。 - 丙ののののさん» コメントありがとうございます!空の描写はめちゃめちゃ時間かけたので、そう言ってもらえると嬉しいです…。今後も感激してもらえるよう頑張ります! (2021年8月16日 8時) (レス) id: 035a026afe (このIDを非表示/違反報告)
丙のののの(プロフ) - 1話目を読み終えたところなのですが…これは…空の描写が美しすぎますね…!くどくないのに美しい情景が伝わる描写…占ツクで初めて見つけました。感激! (2021年8月15日 22時) (レス) id: 4482ed7f20 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ねこる。 | 作成日時:2020年6月5日 8時

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