空十六日目 ページ16
「“お姉さん”とは、こっそり病院の屋上にいた時に会ったのが最初。彼女は、病院に用はなかったけれど、忍びこんだって言ってた」
お姉さんの友達らしい人が、ゆっくりとした口調で話す。
「……それであなたは、なんで病院に?」
そう尋ねると、おおよそ予想通りの答えが返ってくる。
「病気だったんだよね、わたし」
と。
なんでも臓器が生まれつき良くなくて、ドナーが必要な病気だったとのことだ。
「それで、彼女に声かけられて。喋ってるうちに、だんだん仲良くなっていった。毎日が楽しくて仕方なかった。
つまりあの子は、生きられない世界に絶望していたわたしに希望をくれたってこと」
そこまで話して、その人は顔に影を落とす。
「だけど、その頃にはタイムリミットが迫っていた。生きたくても、彼女と話していたくても、そんな願いは叶わなかった。
生きたくない彼女が生きて、生きたいわたしが生きられない、そんな世界を何度も憎んでた。
ドナーは見つからなくて、このままだと死んでしまうかもしれないって時、だった。それが起こったのは」
彼女が、交通事故にあったのは。
そう告げる“お姉さんの友達”の肩は、小刻みに震えていた。
「目を覚まさなかった。そのまま何日も過ぎて、恐らく脳死だろうということになった。
そして、彼女は施設で育ったんだけど、そこの管理人のような立ち位置の人が、臓器提供に同意したの。
そこからは、あれよあれよと言う間に過ぎて、気がつけばわたしは彼女の臓器で生きていた。手術が成功していた」
そこまで話して、その人はとうとう顔を覆った。
「本当に、事故だったんだよ。だって、狙って脳死になれるもんじゃないんだから。それに、事故の原因は運転手の飲酒運転だったんだから」
だけど。自分の命と引き換えに大事な人を失った悲しみは、どれだけ深かったのだろうか。
彼女の声が、顔が、零れ落ちる雫が、それを悲痛に、切実に表していた。
「そして、……わたしは、施設の人から二通の手紙を受け取った。一通はわたし宛、もう一通はあなた宛だよ」
そこまで言うとその人は、鍵のついた引き出しから大事そうに二つの封筒を取り出した。
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ねこる。 - えるさん» コメントありがとうございます!わたしの小説で心が透明になるだなんて嬉しい限りです…。もっと色々な表現ができるよう頑張ります! (2021年10月26日 7時) (レス) id: b433a40741 (このIDを非表示/違反報告)
ねこる。 - まめふなさん» ありがとうございます!レス遅れてすみません…。お話素敵って言ってもらえて嬉しいです!頑張ってラストまで書きます! (2021年10月26日 7時) (レス) id: b433a40741 (このIDを非表示/違反報告)
える - なんか単純に綺麗って言葉が出てきました。空の美しい描写、主人公さんたちの感情表現の書き方が綺麗だと思いました。このお話を読んでる間は心が透明になってる感じでした。作者様の書き方尊敬致します。 (2021年10月17日 7時) (レス) @page27 id: cbb903ca6b (このIDを非表示/違反報告)
ねこる。 - 丙ののののさん» コメントありがとうございます!空の描写はめちゃめちゃ時間かけたので、そう言ってもらえると嬉しいです…。今後も感激してもらえるよう頑張ります! (2021年8月16日 8時) (レス) id: 035a026afe (このIDを非表示/違反報告)
丙のののの(プロフ) - 1話目を読み終えたところなのですが…これは…空の描写が美しすぎますね…!くどくないのに美しい情景が伝わる描写…占ツクで初めて見つけました。感激! (2021年8月15日 22時) (レス) id: 4482ed7f20 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねこる。 | 作成日時:2020年6月5日 8時