【完々】梅 と 松【梅原裕一郎】

心細い ページ14

．産後入院中
．

このご時世のせいで病院にうめが来られない。
傷跡の痛みと戦いながら過しているけど、やっぱり一人だと色々考えてしまって心細い。

娘と同室だから寝顔を見て癒されたり、泣き声を聞いて『赤ちゃんっぽい！』と興奮することくらいしかやることがない。

ありがたいことにご飯が美味しくて、食事の時間が来る度に泣きそうになる。人が作ったご飯最高。

声優を引退して一週間ほど、SNSのアカウントは消してないからログインして見てみると毎日のようにコメントが来ていて温かい気持ちになった。

今日も学校行ってくるね！
赤ちゃんとの生活はどうですか？
梅ちゃんまた下ネタ言ってましたよ

とか。返信したい……！という衝動に駆られるけど我慢。本当に私は幸せものだ。

傷がまだ痛むけど、歩く練習しなきゃなと思って娘を看護師さんに預けて売店まで歩いた。

早く退院したいなー、うめに会いたい。
きっと仕事中だし連絡は出来ないだろうな。
なんて思っていた。

「あれ、A」

幻聴……？幻覚……？うめの姿が見えて、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

『ほ、本物？』
「何言ってんの。仕事終わったから来たんだけど」
『まって…泣きそう』
「なんで、どうした？」
『寂しかった……』

我慢してたものが崩れてきて、気付いたら廊下で号泣していた。
本当にだったら今頃3人での暮らしが始まってるのに、まだ帰れないから寂しい。おまけに娘が夜泣きしても母子同室だから私一人でなんとかしないといけない。
不安でいっぱいになっていた。

「俺も居れたらいいのにってずっと思ってるよ」
『一人で寂しい…家帰りたい…』

廊下の椅子に座って、泣きながら話した。
頭を撫でながら話を聞いてくれて少し落ち着けた。

「目腫れてるよ」
『元々浮腫んでるから変わんないよ』
「はは、けど久しぶりに泣いた顔見た。なんか安心した」
『なんで…？』
「笑ってる顔も好きだけど泣いてる顔も好きだから」
『なっ…ずるくない？なに？』

ふとした時にこういうこと言うんだよね。
なんか面白い。元気が出た。

「会えないの？やっぱり」
『うん。私だけなんだよね』
「そっか。じゃあ仕方ない。写真送って」
『分かった。ありがとうね』
「ん、おやすみ」

短時間だけど、久々に話が出来て良かった。
やっぱり私達は2人で1つなんだ。

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