梅 と 松【梅原裕一郎】

引っ張りだこ声優 ページ5

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Aに起こしてもらったのはいいものの、結局また寝てしまってギリギリに部屋を出た。焦りすぎてポストに鍵を入れるのを忘れてそのまま持ってきてしまったことに、現場に着いてから気付いた。

「あ、やべ」
「どうした梅ちゃん、なになに」
「何もないです」
「えーなんかある言い方じゃんそれは〜、ねえ〜」

隣に座ってる江口さんにしつこく聞かれたから「置いておかないといけないものを持ってきてしまった」と言ったら、良からぬことをしたんじゃないかと驚かれたけど、それは否定しておいた。

いつからだろう。こんな頻繁にお互いの家で寝泊まりするようになったのは。西山を通じて知り合って、同じ賞を受賞して、気付けば仲良しの同世代から踏み切れない男女になっていた。

嫌いではないし、寧ろ好き。好きすぎて一周まわって落ち着く存在になってしまってるから、きっと一歩を踏み出せないんだと思う。

鍵のことを連絡したら『まじでか』とだけ返事が来た。それだけかよ。

とりあえず収録を終えて、またAの家に向かったら既に家の前にAがいた。

『お疲れ様』
「お疲れ。鍵ごめん」
『いいよ、びっくりしたけど』
「あの後また寝ちゃったんだよ」
『やっぱりね』
「もう帰んの」
『うん、帰るよ』

Aはもちろん自分ん家に帰るだろう。俺もそうしようと思っていたのに『お茶でも飲んでく？』と言われてしまって、そんなこと言われたらノーとは言えなかった。

朝ぶりに戻って来たこの部屋には、朝まで俺がいた形跡がちゃんと残っていた。当たり前だけど。

『また脱ぎ散らかして行ったの〜ちゃんと洗濯機入れてって言ってるでしょ』
「どうせ入れてくれるじゃん」
『手間かかるでしょ、もう〜』
「はいはいありがとう」

こんな会話出来るのは普通付き合ってる者同士か夫婦くらいだろう。じゃあこの関係性は一体？

『明日の現場どこ？』
「明日はオフ」
『オフなの！？いいなあ〜私来週までほぼ収録だよ』
「頑張って働け」
『仕事貰えるだけ有難いよね。そうだよね、うん。頑張ります』

Aは今相当忙しい。ほぼ毎日収録とか撮影とか、とにかく引っ張りだこ。これがもっと忙しくなったら会えなかったりするんだろうか。

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