梅 と 松【梅原裕一郎】

聞き逃せない言葉 ページ18

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やっと見ることが出来たその姿に安心して泣いてしまった。
今までこの期間、電話する度に泣きっぱなしでウザがられてたと思う。それでもいいと思った。
私には梅がいないとダメなんだと気付いたから。

部屋に入れてもらって、私が『ストックしといてね』と言っていたカフェオレを出してくれた。彼も同じものをお揃いのマグカップに注いだ。

未だにぐずってる私を見て彼は何も言わなかったけど、きっと呆れてるだろう。泣く女はめんどくさいとかいうタイプだし。

「落ち着いた？」
『…うん。あの、退院おめでとう』
「ありがとう」
『わ、私…あの』
「…あー、ダメだ。ごめん」
『えっ…』

ごめんと言われて、そのまま抱きしめられた。
一瞬なんの事か分からなくて、さっき自分がしてたことを梅ちゃんがしただけなのにとてもドキドキした。

「心配かけた」
『ほんとだよ、でも治って良かった。私がどうにかなりそうだったよ』
「それ色んな人から聞いてる」
『そうなの…』
「あ…ごめん」
『いや、別に…』

身体が離れて少し寂しい気もしたけど、目があって笑いあった。もう寂しくない。もう大丈夫。

夜も遅いから今日は泊まらせてもらった。

次の日梅ちゃんのほうが先に起きてて私は少し寝坊した。遅刻はしない程度だけど少し焦った。

『なんで起こしてくんないのー！』
「いや起こしたって。気持ち良さそうに寝てたけど」
『そこは叩き起さなきゃダメじゃん』
「分かった」
『え、なに』

私が急いで髪を整えたりしていたら、近付いてきた。
そして手を上げたからガチで叩かれる！と思って目をぎゅっと閉じたら、頭にぽんと手を乗せられた。

「叩けるわけないだろ」
『え…？』
「好きな女叩ける男はいない」
『え…？』
「いいから早く行って、もう時間じゃん」
『えっ、ちょっといや痛いって蹴らないでよ！』
「ほらカバン持って、台本入ってる？」
『入ってます！入ってます！あの！ほんとに蹴らないでください！』
「ほら行ってらっしゃい」
『い、行ってきます……』

靴を雑にはいたら玄関の扉が閉まって、鍵がかかる音もした。
あの、絶対に聞き逃せない言葉が聞こえた気がするんだけど。

収録現場に向かう間、とてもドキドキして倒れそうになった。とんでもない爆弾落とさないでよ……

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