あなたがたった一度の恋でした５【水と炎で逆ハー】

其の弐佰参拾玖　無限列車編３６ ページ39

猗窩座に弱いと思われるのは当然だと思う。

悔しいけどそれは認める。

上弦の参だとわかった途端に気持ちが萎縮して動けなかったのだから。



「では素晴らしい提案をしよう。お前も鬼にならないか？」

「ならない」

「見れば解る、お前の強さ。柱だな？その闘気、練り上げられている。至高の領域に近い」

「俺は炎柱、煉獄杏寿郎だ」

「俺は猗窩座。杏寿郎、なぜお前が至高の領域に踏み入れないのか教えてやろう。人間だからだ、老いるからだ、死ぬからだ」



上弦は柱三人に匹敵する強さ。

私が加勢したところできっと邪魔なだけ。

せめて、自分たちの身は自分でーー。

そこまで思って桜は自分が今、気持ちまで弱腰になっていることに気付いた。



(私、いつからこんな弱虫になったんだっけ……？)



ここに来たのは、団子屋のおばちゃんに安心して列車に乗ってもらうためだったはず。

このまま杏寿郎に任せて事態が終息を迎えても、果たして胸を張っておばちゃんの所に行けるだろうか。


ここに来るまでの気持ちを思い出せ！！



(こんなの、私じゃない！！)



こんな弱気になっていたのに、猗窩座から弱者だと馬鹿にされても仕方なかったかもしれない。

確かに、杏寿郎と比べても技術や能力など何もかもが劣っている。

気持ちだけの問題ではないけれど、心を強く持つことはできるはずだ。



(私は冨岡さんの継子だから)



桜は強く拳を握り締め、心の奥底に潜む恐怖心を外に追い出すように、目を閉じ深呼吸を繰り返す。



「鬼になろう杏寿郎。そうすれば、百年でも二百年でも鍛練し続けられる。強くなれる」

「老いることも死ぬことも、人間という儚い生き物の美しさだ。老いるからこそ死ぬからこそ、堪らなく愛おしく、尊いのだ」




炭治郎は絶対安静が必要だとなると、杏寿郎と共に戦うことができるのは桜だけ。

杏寿郎一人に戦わせてはいけない。

勇気を出さなければ。



「強さというものは肉体に対してのみ使う言葉ではない。桜は弱くない。侮辱する者は俺が許さん」

(煉獄さん………)



杏寿郎の言葉が、桜の胸に深く刺さり心を奮い立たせる。

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