検索窓
今日:10 hit、昨日:42 hit、合計:123,272 hit

234話 ページ42

…え?

Aが恐る恐る目の前を見上げると、目と鼻の先には羽京の端正な顔があった。
その眼は、いつもの透き通るようなエメラルドグリーンとは程遠く、鈍く光る、緑であった。

「う…きょう…さん。」

Aが驚きに染った声で言う。

羽京は無言で更に距離を縮めてきた。

……!!

Aが思わず目をつぶると

すっ

Aの肩口に羽京の顔が乗せられた。

「A…。君はどうしてそう、無茶ばかりするんだ。」

震えたような、声だった。

「君がいない間、僕がどんな気持ちだったか、知らないだろ…!!」

まるで海底だ。
底のない海に、沈んでいく。

先が見えない。
暗い。
何も無い。
分からない。

「君がいないと、僕の中は動かない…!!」
「味がしない、匂いがしない、光が見えない!!」
「聞こえるのは、君がいないと証明する音だけだ…!!!!」

羽京の震えを帯びた悲痛な声は、荒れ狂う波のようにAの耳に届いていた。

「いない、いない、いないんだ…!!」
「いないんだ!!A、君が!!」

「僕はいつも間に合わない!!」
「何で…、何で…!!」

羽京の叫びを、Aは静かに聞いていた。

ああ、このどうしようもない無力感とやるせなさを、私は知ってる…。
この気持ちに、飲み込まれてしまいそう…。
私にやれることは、一つしかない…。
羽京さん…。

「羽京さん…。」

Aは湿り気の帯びた肩に埋まる羽京の顔を、そっと持ち上げた。

「わたしをみて」

「羽京さん。」


羽京の泣き腫らした目にAが映る。

Aは優しく、微笑んでいた。

「羽京さん、私、死んでません。」

彼女の口が、優しく動く。

「生きてます。」

羽京の瞳に光が宿る。

「生きてるの。」


ああ、そうだ…。

君は、生きてる。



生きている。



ゆっくりと、突き立てていた腕を下げた。
そのまま、離さないように、失くさないように、しっかりとその細い腰と柔い頭に手を回す。


無くしたくない、失くしたくない、亡くしたくない。


羽京の心情をそのまま表したように、腕に力が入った。

Aもまた、そっと羽京に手を回すと、大丈夫、大丈夫と言い聞かせるように、ゆっくりと頭を撫でた。


羽京が泣き止むまで、それは続いた。




いつしか落ち着くと、二人で甲板に出る。
宴はまだ続いており、終わりそうにもない。
月明かりに照らされた羽京の目は、赤く腫れていた。
Aがそれを緩やかに伝えると、羽京もまたいつものように優しく優しく、笑ったのだ。

235話→←233話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (76 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
139人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

Jane Doe(プロフ) - メウさん!そう!作画めっちゃ良いですよね!3期が楽しみすぎる!こちらこそ!お読み頂き、ありがとうございます(^^) (2023年3月31日 8時) (レス) id: 7151efa53f (このIDを非表示/違反報告)
メウ(゜ロ゜) - 激しく同意です。Dr.STONEのアニメって作画もいいし、めっちゃいいですよね。あと、更新ありがとうございます!! (2023年3月31日 7時) (レス) @page46 id: c71eec4ba7 (このIDを非表示/違反報告)
Jane Doe(プロフ) - 呟きです。2期OPのゲン、めっちゃ良いですよね。 (2023年3月31日 1時) (レス) id: 7151efa53f (このIDを非表示/違反報告)
Jane Doe(プロフ) - 神夜さん!読んでいただけているのが嬉しいです!分かりますー。私ももっとドクターストーンの小説読み漁りたい…!ぜひ最後までお付き合い下さい! (2023年3月31日 1時) (レス) id: 7151efa53f (このIDを非表示/違反報告)
Jane Doe(プロフ) - たくあんさん!コメントありがとうございます!神とは!嬉しいですね。その言葉をかけてくれるたくあんさんのが神ですよ! (2023年3月31日 1時) (レス) id: 7151efa53f (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:Jane Doe | 作成日時:2023年3月24日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。