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『その子、頭良くて。
何にも勝てなかったけど、
唯一、演技だけは』
『うんうん？』
『好きだってことを悟られないように、みたいな。
友達で居られるように』
『なるほど。告白しようと思わなかったの？』
『できなかったですね』
"俺、ちゃんに唯一勝ってることあると思う"
コインランドリーで迎えたきみとの最後の夜。
"なに？"
"演技"
そりゃそうでしょ、と笑った俺に、
大ちゃんはあの真っ直ぐな目をして、
そうじゃなくて、と言った。
"…サインがあったら、いのちゃんは行動すんの？"
あの真っ直ぐな目が昔から苦手だった。
ろくでもない俺を見抜かれそうな気がするから。
でも、もしかしてそれが、半分合っていたとしたら。
好きな人が何を考えているのか知りたくて、
一瞬も見逃さないように見つめていた、としたら……？
最後の夜、
大ちゃん高校の頃追試ばっかだったよね、と
笑った俺に、きみは
俺に唯一勝っていることがあると言った。
それは演技だと。
そりゃそうだと笑った俺に、そうじゃなくて、と、
あの目をして、
俺がどういう反応をするのか、じっと、見ていた……？
「…ひかる、大ちゃんの初恋って誰」
「へ？！え、ええと…。な、何だよいきなり……」
ひかるは昔から隠し事が下手だ。
都合が良すぎるはずの、仮説のピースがはまっていく。
はやる心臓。口が渇いて、手が震える。
もしかして、もしかしなくても…。
大ちゃんはくれたってこと？
こんなろくでもない俺に、サインというやつを。
目を閉じると、クラクラ、目が回る。
それでも、それでも大ちゃんが俺にくれたんだ…。
「俺、大ちゃんが好き」
ぎゅっと目を閉じたまま、
一生口にすることは無いと思ってた台詞を吐き出した。
手の震えがおさまらない。
ひかるが隣で息を呑んだ。
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作者名：ponpoco | 作成日時：2021年3月22日 23時
